新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

メアリー女王とダーンリー卿のカメオ

 1989年発表の本書は、昨日「修道院の第二の殺人」を紹介した、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第二作。実は3作買ってあって、前作が面白かったものだから連続して読むことにした。「軽快な犯人探し」という紹介文にも魅かれたし、19世紀のスコットランドの風情が心地よかったから。

 

 しかし本書で、ファロ家はとんでもない事件に巻き込まれる。いや巻き込まれていたのを思い出すことになる。ジェレミー・ファロの父親マグナスも警官だったが、ジェレミーが5歳の時に馬車にひかれて亡くなった。なにやら大きな事件を手掛けていたようで、母親メアリーは「殺害された」と訴えたのだが、事故で処理されてしまっていた。その時マグナスが持っていたカメオには、スコットランド女王メアリの肖像が刻まれていた。

 

 それから30余年、ジェレミーのところにはオークニー(諸島)にいる母親メアリと預けてある2人の娘が夏季休暇で滞在していた。義理の息子ヴィンスと一緒に久々の家族団らんだったが、エジンバラ城の崖下で見つかった死体のせいでファロ警部補とヴィンス医師は仕事をすることになる。

 

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 エジンバラ城はメアリ女王のものを所蔵する博物館になっていて、ときおり窃盗犯がやってくる。しかし崖を登って侵入しようとして、過去に大勢の窃盗犯が死んだ。今回もそんな事件かと思われた。ジェレミーが捜索してみると男の横顔を刻んだカメオが見つかり、そこに城の方から岩が降ってきてジェレミーは負傷してしまう。カメオは父親が持っていたものとのペアで、いずれも博物館から盗まれたものと思われた。

 

 父親が追っていた事件は、城の壁の中から赤ん坊を収めた古い棺が見つかったというもの。そこに2枚のカメオが副葬されていたらしい。メアリ女王と夫のダーンリー卿であるなら、赤ん坊は2人の子供ではないか?しかし2人には子供は一人しかいない。それは、スコットランド王からイングランド王になったジェームス6世である。

 

 英国王室の血筋の正統性に関わりかねない事件を、父親の無念を晴らすことも含めて解決しようとするジェレミーたちに、次々と試練が襲い掛かる。

 

 「軽快な犯人探し」のはずが、とんでもなく重い歴史(のIF)ミステリーになってしまいました。シリーズものの第二作にしてはいきなりの急展開。慌てて第三作も読んでみることにします。