新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

懐かしいジュブナイル

 日本の「SF御三家」といえば、小松左京星新一と本書の作者筒井康隆を指す。あまりSFを読まなかった学生時代の僕だが、小松左京のハードでシリアスなSFは嫌いではなかった。星新一ショートショートは、正直何が書いてあるのかわからずほとんど読んでいない。ではこの作者はというと・・・。

 

 実は、書物の形で作品に触れるのは初めてである。本書には中高生向け雑誌に連載したのだろうか、学園ものばかり3篇が収められている。表題作「時をかける少女」(1967年)は、何度も映画・TVドラマ化されている。原田知世主演の角川映画は、僕も見た記憶がある。

 

 SFを書き始めてしばらくは、パロディものやナンセンスものが中心だったという。のちの「日本以外全部沈没」(1973年)などその流れを汲むものだ。TVアニメ「スーパージェッター」の原作をしてお金がたまり、専業作家になったという。けっこうクセのある人で、てんかんを使った小説が「差別的だ」と非難されても謝罪もせず事件になった。その結果一時期「断筆宣言」をする羽目になる。

 

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 再び筆を執ってから、本書をはじめとする代表作を執筆したと解説にある。表題作が学研の「中三コース」「高一コース」に連載されたころ、僕はまだ小学生だった。後年映画で見ただけだが、それでもなつかしさを感じながら読んだ。中学三年生の和子は、理科室の清掃中にラベンダーの香りの薬品を嗅いで気を失い、その後特殊な能力を身につけ「時をかける」ことができるようになる。

 

 中学生向けにわかりやすくテレポーテーションやタイムリープの説明がしてあり、西暦2,600年ころの世相が紹介されている。時間旅行の要点を抑えながら難しすぎないよう、興味を持たせるような工夫がみられる。あと2篇も類似の学園もので、ちょっとした言葉から妄想を掻き立てる子供の心理や、複数の世界が並走してときどきそのカベに穴が開く現象を分かりやすい例で示している。

 

 ジュブナイルなので仕方ないのですが、どうしても子供だましの感じがしてしまいます。「スーパージェッター」のシナリオはとても面白かったのですが、それは僕がまだ小学生にもなっていなかったからでしょうか?