新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

不動のビジネス探偵登場

 以前「腰抜け連盟」を紹介したレックス・スタウトのレギュラー探偵ネロ・ウルフと助手のアーチー・グッドウィンが初登場するのが、1934年発表の本書。ヴァン・ダインに始まる米国の本格黄金期の後半に登場したこのコンビだが、本格派が行き詰る中、本国では根強い人気を保っているという。ただ邦訳は、登場作品3ダースのうちの半分くらい。日米で評価の分かれるシリーズらしい。

 

 作者のレックス・スタウトはクエーカー教徒の家に生まれ、海軍や雑多なビジネスを経て財を成すのだが、大恐慌で財産を失い小説を書き始めた。本書の前に普通小説4作を発表、48歳で発表した本書が大当たりした。

 

 興味本位で警察に協力するファイロ・ヴァンス型でも、やたらと拳銃を振り回すコンチネンタル・オプ型でもないこのコンビは、ミステリー界に新風を吹き込んだと解説にある。ウルフは私立探偵だがニューヨーク35丁目のペントハウスに、蘭と美食に囲まれて暮らしている。120kgを超える巨体で、助手に言わせると「どうやって着替えているのかわからない」ほど動けない。

 

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 毎日(朝から)最低1ダースのビールを呑み、専属料理人フリッツに美食を作らせている。午前・午後に2時間づつ、蘭の世話をするので「面会謝絶」。事件関係者はAM11時に呼びつけ、ランチまでに帰そうとする。

 

 そんな暮らしを支えるために、相応のおカネを稼ぐ必要があり、事件解決・犯人検挙よりは関係者からどうやってカネを受け取るかに注力する。もちろん天才探偵なので、犯人や手口は現場に行かなくても分かってしまう。ただその情報を誰が一番高く買ってくれるかが問題なのだ。

 

 今回の事件は新聞の切り抜き跡だけ残して失踪した金属細工士の事件、ウルフの慧眼はゴルフ場で急死した大学総長の死とからめて、総長がクラブに仕掛けられた毒で死んだことを突き止める。助手のアーチー君はウルフの指示で関係者を巡るうち、総長と一緒にゴルフをしていた富豪に目を付ける。

 

 100ページに一度、ウルフの推理が冴える。クラブのトリック、被害者が死んだわけ、そして真犯人。しかし犯人側もウルフに原題となっている「Fer de Lance:南米のヤジリハブ属の毒蛇」を送り付けてくる。

 

 世界ベスト30の常連である本書、初めて読みましたがさすがの名作です。ウルフの解決もちょっとひねってあって・・・。邦訳が少ないのが残念ですね。