2010年発表の本書は、これまで「不屈の弾道」「運命の強敵」を紹介してきた、ジャック・コグリン&ドナルド・A・デイヴィス共著による「最強のガニー、カイル・スワンソンもの」の第三作。
狙撃手として、特殊部隊の兵士として最高の技量・勇気・体力を持つカイルは、やはり特殊作戦の主役でデビューしたが、この時点では戦術級、あるいは戦闘級のヒーローの位置づけだった。第二作でやや作戦級の指揮も執れることを示したが、本書では石油大国サウジアラビアの国難を打破する、大作戦を担うことになる。
カイルの息子のように愛するジェフとパットのハイテク兵器企業社長夫妻は、今回はイスラエルとサウジアラビアの平和条約調印を黒子として企画した。舞台に選ばれたのはスコットランドの古城。サウジの駐米大使でもあるアブドラ王子や米国国務長官らも招いて、いざ調印という時にテロリストの放ったTOWミサイルによって、会合は粉砕された。国務長官が死亡、ジェフも重傷を負ったが、アブドラ王子とパットは軽傷で済んだ。この城の警備は、かつてカイルが「甘い」と評していたが、不幸にも的中してしまった。
アラブ諸国の盟主たるサウジが仇敵イスラエルと平和条約を結ぶのは、アラブ過激派の激高するところ。その確執に乗じてサウジにクーデターを起こそうというのが犯行グループの狙いだった。陰にはロシアがおり、中国も漁夫の利を企む。しかもその実行部隊の指揮官は、前作で死んだと思われていたカイルの仇敵、ジューバと名乗るテロリストだった。
冒頭パキスタンの潜入したカイルたちのチーム<トライデント>は、何の痕跡も残さず50人ほどのテロリスト集団をせん滅する。このチーム、ニューマン大尉と4人の軍曹がメンバーなのだが、実質的な指揮官はカイル(一等軍曹:ガニー)。<トライデント>そのものがカイルのために作られたような組織なのだ。部門長のミドルトン少将も上司のはずのサマーズ少佐も、カイルの意見にはおおむね従う。
ジェフたちの紹介でアブドラ王子とも親しくなったカイルは、今回は指令というよりは国王になったしまったアブドラとの友情もあってサウジでの危険に任務に就く。それはサウジでのクーデターを防ぐだけではなく、サウジ軍がこっそり保有していた5発の核弾頭を回収する任務だった。
ついに戦略級の領域に手が伸びた「一等軍曹」、さて次はどんな物語になるのでしょうか?