新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

黒人でライフルが撃て、身を守れない

 先月、狙撃手だったコグリンとベテラン作家デイヴィスの共著「最強のガニー、スワンソン狙撃手もの」を3冊立て続けに紹介した。2018年発表の本書も、狙撃手だったニコラス・アーヴィングが、軍事アクション小説で実績あるA・J・テイタの助けを借りて発表したもの。

 

 アーヴィングはアフガニスタンで闘い、タリバンの指揮官ら33人を仕留め「ザ・リーパー:死神」とあだ名された狙撃兵である。本書の前に自伝ノンフィクション「ザ・リーパー」を発表しているが、邦訳はされていない。彼を助けたテイタは、陸軍空挺師団、山岳師団などを指揮した准将。退役後は会社経営、州の運輸長官などを務める傍ら、軍事小説を書いていた。

 

 多分アーヴィングは下士官のはずで、退役したとしても階級の縛りが厳しい業界で、下士官を准将が助けるというのは珍しいことだと思う。現役時代に交流があったのか、自伝ノンフィクションが優れていたのだろう。

 

        

 

 もう一つ興味深いのは、アーヴィングをそのまま名前だけ変えて登場させたような主人公の狙撃兵ヴィック・ハーウッドのこと。これまで狙撃兵ものは沢山読んだが、J・ハンターのスワガーも、上記のスワンソンも白人である。黒人の狙撃手ものは初めてだった。

 

 BLM運動が起きている最中の作品でもあり、容疑者にされて追われ続けるハーウッドが、終盤FBI捜査官ブロンソン(彼も黒人)に、なぜ逃げたと問われ「俺は黒人で、ライフルが撃て、身を守るのが困難な状況におかれた」と言っている。

 

 ハーウッドとスポッターは、アフガニスタンチェチェンバサエフを追っていて迫撃砲を浴びた。ハーウッドは負傷して助けられたが、負傷が癒えてもPTSDになって新兵のトレーナーをしていた。そこに、現役や退役将軍が立て続けに狙撃される事件が起きた。使われたのが、ハーウッドがアフガニスタンで失った銃らしい。追われる羽目になったハーウッドは、FBIブロンソンの追撃をかわして真相を探ろうとする。

 

 背景にあるのは民間軍事会社の存在、多分白人の将軍たちが天下った先で、戦争行為を肩代わりして儲けているのだ。さらに戦地から、捉えた女や麻薬の密輸まで、この会社はやってのける。

 

 さすがのアクションが続き、500ページが短く感じた。ストーリーはどこかで読んだものに近いのですが、戦術核兵器まで持ち出してのサスペンスは充分でした。