新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

二千年の愛、二千年の命

 創元推理文庫の<古代帆船>のマークは、怪奇冒険小説のジャンルを表している。僕としては、SFよりも苦手な分野で、ほとんど読んだことがない。それでも「ソロモン王の洞窟」シリーズで有名なこの作者ヘンリー・ライダー・ハガードの名前だけは知っていた。作者は富裕な地主の家に生まれ、子供の頃から心霊現象が大好きだった。20歳にならないうちに南アフリカに渡り、先住民やボーア人との戦争を経験した。異国を舞台にした怪奇譚の基礎は、そのような体験から生まれたものだろう。

 

 本書は1886年の発表で、デビュー間もないころの作品。主人公のレオ・ヴィンシィは、アポロが現代に蘇ったかのような美丈夫。しかし不幸な生い立ちを持った青年で、母を出産時に、父を5歳の時に亡くしている。父親の親友だったホリー(私)が故人の遺言によって後見役を努めて育ててきた。

 

 遺言には謎めいたことがあり、レオが25歳になったらアフリカに渡ってある場所に行くように求められていた。父親自身ヘロドトスが「美男」と褒めたスパルタ人カリクラテスの子孫で、その血ゆえアフリカに行かねばならぬらしい。カリクラテスは紀元前479年にペルシアとの戦いで死んだと伝えられている。

 

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 レオとは対照的に類人猿のような体形、風貌のホリーは、誠実に遺言を守り、従者のジョブと3人でアフリカへ向かった。船の遭難や食人族との遭遇など、多くの試練を経て3人はアマハッガー族の族長のところにたどり着く。族長には<われらが従わなければならぬお方>から、白人が来たら殺さず連れてこいという命令が届いていた。

 

 3人は<コール>と呼ばれる洞窟に連れていかれ、そこで絶世の美女アッシャに謁見する。アッシャは、カリクラテスを愛していて彼が生まれ変わるのを二千年以上待っていたという。生まれ変わりがレオなのだ。学者でもあるホリーは、アッシャと会話をして、彼女が二千年以上生きていることを確信する。彼女はその頃のことを子細に語り、その後の世界を知らないのだ。アッシャはレオにも自分同様「永遠の命」を与えるべく、秘密の聖地に連れて行こうとする。

 

 いや、古色蒼然とした物語でした。「ソロモンの洞窟」を読んでいないので何とも言えないのですが、作者の作品は今でも読み継がれているということですか?