新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ペーパーバック・ライター出身の作家

 本書の作者ジョン・D・マクドナルドは、ヨット住まいの探偵「トラヴィス・マッギーもの」始め、60冊以上の犯罪小説・スパイ小説などを書いた。本書の主人公サム・ボーデン弁護士同様、作者も第二次世界大戦中は軍人。CIAの前身であるOSSに所属していた陸軍中佐だった。日本陸軍では考えられないことだが、作者は現役時代からペーパーバック・ライターとして活動していた。戦後、退役して本格的に作家として活動を始め、上記のように60冊以上の作品を遺した。

 

 「トラヴィス・マッギーもの」は邦訳も出ているのだが、僕自身は読んだこともないし書店で見かけることもない。ミステリーベストxxに紹介されていた「夜の終り」だけは学生時代に読んで、力量ある作家と思っていた。最近ようやくBookoffで名前を見るようになり、本書(1958年発表)を始め3冊購入した。

 

 戦争終結から12年余りがたち、サムはロースクール時代に知り合ったキャロルと結婚し、ナンシー(14歳)、ジェイミー(12歳)、バッキー(6歳)の3人の子供と南部ニューサセックスで暮らしている。彼は弁護士事務所のパートナーにもなった成功者で、休暇は家族でヨット生活を楽しんでいる。

 

        

 

 そんなサム一家を悩ます事態が起きた。戦争中メルボルンで米軍下士官キャロル・ボーデンが、現地の14歳の少女をレイプした事件。法務監局の中尉だったサムが目撃者となり、証言して彼を終身刑にした。その男が、13年間の重労働刑を終えて仮出所したのだ。

 

 酒におぼれる乱暴者のボーデンだが、犯罪センスがあり動作も機敏で格闘・射撃も得意だ。見え隠れにまとわりつくボーデンの姿に、サムやキャロルは震え上がる。サム家の愛犬が毒殺され、サムは探偵を雇ったり警察に訴えるのだが、悪知恵に長けたボーデンは尾行も拘束もできない。林間学校中のジェイミーが狙撃され軽傷を負ったことから、サムとキャロルは反撃を試みることにする。

 

 本書は、邦題名「恐怖の岬」で2度映画化されている。1962年の作品はJ・リー・トンプソン監督、サム役グレゴリー・ペック、ボーデン役ロバート・ミッチャムだという。注文もなくただタイプライターを打ち、わずかな報酬で作品(の卵)を出版社に売ることから始めるのがペーパーバック・ライターだそうです。作者はのような下積みを経験して、大家となったもの。腕は確かな作家です。残った2冊も楽しみです。