新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米国を横断した無軌道な犯罪

 昨日、ペーパーバックライター出身の作家ジョン・D・マクドナルドの初期の作品「ケープ・フィアー」を紹介した。米国では有名な作家なのだが、日本では知る人は少ない。本書(1960年発表)は中期の秀作で、創元社が最初に作者の作品を邦訳したものである。

 

 冒頭、4人の死刑囚が同時に処刑されたとの記事がある。ペンシルバニア州では同時に3人までが最高記録、しかもそのうち一人は女だったという。こんな異常事態を招いたのは、テキサス~テネシーペンシルバニアと無軌道な犯罪を続けてきた、4人の若い犯罪者がいたからだ。日本なら<広域xx号事件>と呼ばれる犯罪で、複数の男を殺し車泥棒や強盗を繰り返し、結婚間際の令嬢を誘拐した事件である。

 

        

 

 犯人たちが死刑になったシーンからフラッシュバックして、彼らを弁護した弁護士、捜査した保安官やFBI捜査官、事件に関係した人々の語りが重ねられる。さらに、4人の中で一番気弱な大学生カービーの長い回顧シーンが加わる。

 

 中流家庭に育ち大学卒業間際だったカービーは大学生活に倦み、演出家と女優の夫婦と一緒に、ニューヨークからアカプルコまで旅をする。運転手役だけのはずが、女優と割ない仲になり夫の怒りを買う。夫婦が殺し合った現場から逃げた彼は、テキサスで3人のワルと出会う。

 

 リーダー格のサンデーは賢いがラリって情緒不安定、野獣のようなロバート、元モデルのナンと裏社会で生きている。カービーを加えた彼らは、ニューヨークで一旗挙げようと、手始めにセールスマンを殺してカネと車を奪った。その後は行く先々で犯罪を繰り返す。

 

 なぜ犯罪を犯すのか?彼らにもよくわかっていない。今カネが要る、車を替えなきゃ、カモが来た・・・というのが理由。なんとか終身刑に、という弁護士の努力は報われず、死刑が確定した。

 

 50年以上前に読んだ本、ところどころ覚えていました。評判は上々だったのですが、当時は良く分かりませんでした。そのあたり、少しは理解できたようです。