新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

初代内閣安全保障室長の青春

 1989年発表の本書は、初代内閣安全保障室長などを務めた危機管理の専門家佐々淳行氏の青春録。東大法学部を出て今の警察庁に入庁した筆者は、研修後目黒警察署に配属される。階級は警部補で、署長(警視)ら幹部から「君は三級職(キャリア)だから警部補だが、一般の警官は最低7年かけないと警部補になれない。よくわきまえておくよう」と訓示される。当時キャリアがショカツに配属されることなど滅多になかった。

 

 署内でも最低評価を受けている第三班の主任を任された筆者の苦闘が、ここから始まる。年上の部下(巡査・巡査部長)を20余人も束ねて、常日頃奇々怪々な事件の起きる目黒署管内を巡ることになる。僕がまだ生まれていない1954年のこと、まだ戦後の混乱も残っていて街中には小悪党が溢れていた。

 

        

 

 売春の摘発、暴力団や過激派組織へのガサ入れ、殺人容疑者の精神病院からの逃亡、米軍人の高級車盗難など、若い主任には多くの事件が降って来る。夜の街をパトロールしていて、検挙歴のある売春婦たちに「目黒署の皇太子」ともてはやされたことも。署内の暮らしとしても、他の所轄との柔道試合に引っ張り出されたり、重くてかさばるコルト.45口径のリボルバーを持たされたり、山賊の宴会のような署内の忘年会に驚いたり・・・。

 

 筆者は後に、在香港領事、三重県警本部長、防衛施設庁長官などを経て初代安全保障室長に就く。当時の後藤田官房長官からは、何か事件があると<ブッチ・ホン>で呼び出され「君、ちょっと○○に行ってやな・・・」と特命を受けて事態収拾にあたる。「危機管理」という言葉を日本で広めた人で、昭和天皇大喪の礼を終えて退任してからも、TV出演や著作でリスクマネジメントの重要性を強調した。

 

 僕も若いころに影響を受けた人のひとりです。戦国時代の猛将佐々成正の末裔の著者も、2018年に亡くなりましたが、その青春時代の話。面白かったです。