新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

決して知能犯ではない

 本書は元国税調査官経営コンサルタント大村大次郎氏が、2005年に発表したもの。少し古い書で、今では改善されていることもあるかもしれないが、日本の税制や税務当局の限界を含め、脱税に関する情報を満載した「脱税ゼミナール」のようなものだ。冒頭筆者は「税金の研究は多いのに、脱税については研究らしきものがない」と執筆の動機を書いている。

 

 まず「脱税」を罪名と捉えると、1億円以上で悪質なものしか有罪にならないので対象は少ないが、犯罪と捉えると社会のそこかしこに散見されるとある。一般に「脱税は知能犯」とのイメージがあるが、現実にはやっつけ型の犯罪だという。多いのが、

 

1)税金の額が予想外に多くて、脱税に走る

2)脱税がしやすい立場にいるものが(常習的に)脱税する

3)裏金ねん出の必要に迫られ、結果として脱税してしまう

 

 の3パターン。多くのケーススタディが記載されていて、例えば1)のパターンは個人の相続税。1億円近くないと発生しない税金だが、金持ちほどカネに執着するので、資産隠しなどに走るという。

 

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 2)のパターンは、脱税しやすい業種毎にコメントがある。

 

・芸能界 浮き沈みが激しく、裏金などの商習慣も多い

・政治家 税制上の規制が緩く、経費の範囲が広い。国税庁にとってタブーな業種

・医者 これも規制が緩く、自由診療分やリベートを隠しやすい

・宗教法人 設備等はほぼ無税、住職のお布施などは容易に隠せる

・飲食、風俗 不特定多数の客、領収書不要、仕入れと売上げの関連が薄い

・国際企業 国境を渡る取引を複雑にからませると、当局も手が出しにくい

・ネットビジネス 客は不特定多数、設備所在も実質経営者も分かりにくい

 

 3)のパターンでは、公共事業の多層下請け体質の建設業を例に、裏金づくりのために使われる手口もいくつか紹介されている。

 

 これらのほとんどが、本気で調べられたら直ぐに底が割れる単純なもの。決して知能はではなく「その場しのぎ」ばかりだという。しかし税務調査を担当する国税庁地方自治体も人手では十分でなく、網羅的な調査はできない。調査よりもむしろ、払ってくれない(未納)相手からどう徴収するかが大変だとある。

 

 税務調査官には政治家以外にもタブー領域はあって、それが税務署OBが関与する案件。一種の天下り先のことかもしれない。このところ確定申告が定常的になっていますが、税務署の本音聞けて良かったです。