新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

特急に追いつけないL特急

 1995年発表の本書は、深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」中期の作品。津村秀介の「伸介&美保シリーズ」とはちょっと違うアリバイ崩しものの連作である。後者は純然たる公共交通機関の乗り継ぎによるアリバイ工作がメインだが、前者は高速道路やその他の移動手段も使うのが特徴。それでも本書では、中心となるアリバイ崩しは時刻表を十二分に駆使することになる。

 

 能登半島・灘浦海岸で病院勤務の薬剤師由紀恵が殺害された。アラサーの彼女は評判の美人、いくつかの浮名を流した末年下の製薬会社営業マンと婚約していた。容疑者は不倫相手の病院の医師と、その営業マンだったが、いずれもアリバイを主張する。石川県警の島中刑事らは、被害者がスケジューラに残した(S)の文字を手掛かりに、由紀恵が月1回ペースで会っていた第三の人物がいる可能性を追う。

 

        

 

 手掛かりがないまま半年が経ったころ、今度は営業マンが殺された。和倉温泉への旅行中に、偶然被害者が男と会っているシーンを目撃した美緒は、壮を引き込んで事件に介入する。壮の推理で浮かんだ第三の容疑者には、由紀恵を殺した後では東京に帰れたはずがないというアリバイがあった。

 

 金沢発1847の特急「きらめき4号」で米原に行けば、新幹線に乗り換えて東京に戻れた。しかし犯人は新潟~大阪間のL特急「雷鳥44号」にしか乗れなかったはず。2つの特急は3~4分の差で金沢~敦賀間を走るのだが、L特急は先行する特急には追い付けない。(両特急は敦賀で、琵琶湖の西岸と東岸の線路に分かれる) 素人探偵を煙たがる島中らに対し、壮は次々を可能性を示すのだが、犯人側もそれを否定する新しい証言を思い出して防戦する。このあたりの迫力は、シリーズ中でも一流だ。

 

 十分面白かったし、推理も楽しめたのですが、アリバイ工作のコア部分はちょっと当て外れ。もう少し伏線を張っておいて欲しかったですね。読者によっては「騙された、アンフェアだ」という人も出てくるかもしれません。