本書は、派閥も無くしてニュースに取り上げられることも少なくなったのに、未だに「次の総理は誰」アンケートで3本の指に入る自民党石破茂議員の近著。<デイリー新潮誌>に2021年2月から1年間にわたって連載したコラムを、1冊の本にまとめたもの。菅~岸田内閣時代のエピソードが並んでいるが、ほとんどは目新しい話題や主張ではない。ポイントは、全編を貫く政治姿勢だ。冒頭、
「君の意見は正しい。俺もそう思う。しかし世の中の人には通じない」
と何度も言われたとあり、多くの課題を「まあまあ」と先送りにしてしまったとの反省がある。あとがきに、政治の師たるミッチーこと渡辺美智雄氏の言葉として、
「政治家の仕事は、勇気と真心を持って真実を語ること」
が紹介されている。事実上、本書の全てはこの2つの言葉に集約されている。先送りしたこと、正論を吐けなかったことの事例として、
・「Go To」の是非に議論を矮小化せず、税制含めた根本的な経済対策を図れ
・「COVID-19」の行動制限の話と憲法の緊急事態条項の議論を一緒にするな
・中国の巡視船を軽視せず、海上自衛隊と海上保安庁の関連法令を見直すべし
・他国より患者が少なく、ベッド数も多いのに、なぜ医療がひっ迫するか検証せよ
・東京都は家庭所得では全国1位だが、豊かさ(*1)では最下位であることを直視せよ
・「COVID-19」を感染症区分5類にせよ
などが挙げられている。ほとんどは同感だし、マイナンバー問題も原発問題も政治家が真摯に国民と向き合わなかったからこんなにこじれてしまったと僕も思う。
最後に「迫力のない野党は国のためにならない」と、野党の奮起を促している。第二次安倍内閣以降、与党には政権を失うかもとの恐怖感はゼロだと筆者は言う。2021年秋の総裁選で河野候補を担いで敗れたことで、達観の領域に入ってしまったのかもしれない。以前だったら「党を割ってでも二大政党を作る」と仰ったかもしれないのですが・・・。
*1:世帯当たりの可処分所得から基礎支出を引き、さらに通勤時間を費用換算した数値を引いた、実質的な世帯当たりの余裕