新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

1939年5月13日、パリでの怪事件

 1946年発表の本書は、本格マニアであるマルセル・F・ラントームが、書いた長編ミステリ3編のうちのひとつ。作者はこれらを、ドイツ軍の捕虜収容所で書いた。あまりに退屈な毎日だったからで、原稿は家族へ送るものに隠されて収容所から出た。彼はのちに脱走し、レジスタンスに加わって闘っている。

 

 戦後に出版されたのだが、本国での評判はもうひとつ。作者はミステリの世界から足を洗ってしまい、幻の作品となっていた。21世紀になって一部マニアから再評価され、日本でも翻訳が出るようになっている。

 

 WWⅡ直前の1939年5月、パリで大富豪だったプイヤンジュ家の娘アリーヌと天才発明家アルデーブルの結婚式が行われた。プイヤンジュ家は先代のころから落ちぶれて来て、邸宅も左右対称の左側は賃貸に出している。目立った資産は長く銀行の金庫に収められている、2,000万フランは下らない大ダイヤモンド<ケープタウンの星>だけ。

 

        

 

 ダイヤは金庫から出されて、宝石鑑定人の手によって結婚式場である邸宅に運ばれた。鑑定人は本物であることを確認して箱に入れて鍵をかけ、その周りは保険引き受け企業のある6ヵ国(英仏のほか日独伊、ノルウェー)の警官が厳重に警戒していた。しかし、披露宴終了後箱を開けると偽物になっていた。

 

 また、アルデーブルが開発した新型飛行艇<白いアリーヌ号>も警備員が眠らされて盗まれ、身元不明の射殺死体まで出てきた。この不可解な謎に、素人探偵ボブ・スローマンとわたしことシャルル・テルミーヌが挑む。

 

 おなじみの「読者への挑戦」があって、全体の1/4以上が解決編。官憲と探偵役、そして事件関係者(つまり容疑者)が20人あまり、一堂に会しての謎解きが始まる。真ん中で仕切られた左右対称の妖館でのトリック、アリバイ工作と真犯人たる条件・・・本格ミステリーのエッセンスを全部入れた作品でした。恨みとしては、探偵役の印象が薄かったことでしょうか。パズラーとして、面白かったのは確かです。