新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5月末日、5つのサスペンス

 本書は以前「幻の女」などを紹介したウィリアム・アイリッシュが、コーネル・ウールリッチ名義で1948年に発表したもの。詩のような美文調と哀愁を帯びたサスペンスが特徴の作者だが、サスペンスにもいろいろな種類がある。本書は、不幸な事件で恋人を亡くした男が、彼女の命日(5/31)に事件の原因となった男たちの最愛の人を殺すという復讐劇だ。ターゲットは5人、それぞれの復讐劇が違った種類のサスペンスを盛り込んで語られる。

 

 貧しい若者ジョニーとドロシーは、毎晩8時に逢って12時に分かれる毎日を送っていた。お金が無くて一緒に暮らせないが、いつかは・・・と考える日々だった。しかし5月最後の夜、ドロシーは小型機から投げ落とされた空の酒瓶に直撃されて死んでしまう。ジョニーは航空会社の記録を調べ、5人の上級市民が乗っていたことを知る。誰が酒瓶を投げたかは分からないので、全員に復讐することをジョニーは決意する。

 

        

 

 上院議員の妻は、事故に見せかけて殺した。別の男は、三角関係に愛人のもつれを利用した罠にはめた。あるいは妻を誘惑し、また盲目の女を誘拐もした。愛する人を失って悲しむ彼らにジョニーは「どんな気持ちか分かったろう」とのメッセージを送る。5つの復讐劇が5つの章立てになっているが、全て建付けが異なる。ジョニーは変名を使って現れることもあるが、全く表に出ない章もある。

 

 全編を通じて登場するのはカメロン刑事。最初の事件でメッセージを見てから、近隣で起きる同種の事件を連続したものと考え始める。そして事件は必ず5月末日に起きていたことを知る。最後の復讐ではターゲットも期日もカメロンは掴んでいて、ジョニーを待ち受けるのだが・・・。

 

 いくつかのトリックを盛り込んだミステリーというのはあるのだが、5種のサスペンスを盛り込んだ作品に出合ったのは初めて。サスペンス作家アイリッシュの真骨頂のような作品でした。これは傑作です。