2019年発表の本書は、成都生まれで日本に帰化した評論家石平氏の、中国偉人伝。筆者は「なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか」で山本七平賞を受賞し、中国に対して辛口な評論で知られる。
堺屋先生には「日本を創った12人」(*1)という名著があるが、それに似せながらも筆者の、
・むき出しの欲望が中国の原動力
・いつになったら中国国民は権力から解放されるか
という主張が貫かれた「史観」である。取り上げられているのは、
・蘇秦 秦の統一以前、7国争う時代の外交謀略家
・李斯と趙高 秦朝の興亡に関わる謀略家で「利口な愚か者」
・項羽と劉邦 前漢成立時の、貴族的な武将と無頼漢出身の為政者
・王莽 前漢を乗っ取り新を作った、史上最大の偽善者
・曹操と孔明 三国志時代の陽気な現実主義者と陰気な精神主義者
・則天武后 男たちの支配を覆した稀代の悪女
・袁世凱 私利私欲(のみ)に走る裏切りの専門家
の12人。諸葛孔明は「悪党」に入っているのは、三国志演義しか読んでいない日本人には奇妙かもしれないが、精神主義に走って無謀な北伐を5度も繰り返し、蜀の民を苦しめたし、それ(*2)が貴いことを後世に伝えてしまったのが悪いという。
周恩来も、徹底したイエスマンだったから悪いのは毛沢東だろうと思われるのだが、彼の死ぬまで奴隷のように忠誠を貫いた姿勢が、現在の習大人の独裁の基になったと考えれば、やはり悪党なのだ。それにしても毛沢東の大躍進政策(農業生産を倍増して農民を鉄鋼生産に振り向ける)は、愚策中の愚策。結果として4,000万人もの餓死者を出した。
筆者は中国(の為政者)には「罪の意識」も「恥の文化」もないといいます。目的のためには手段は選ばない。それがかの国の普通の姿なのですね。
PS:今日6月4日は「天安門事件」の日でした。
*1:人物から見た「堺屋史観」 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)
*2:先帝劉備の遺志を継いで闘うこと