1963年発表の本書は、ようやく手に入ったジョン・ル・カレの名作。以前紹介した「高貴なる殺人」に次ぐ第三作で、作者の名前を不朽のものにした現代エスピオナージの古典的作品。米国探偵作家クラブ賞と英国推理作家協会賞をダブル受賞している。
オランダ語、ドイツ語に堪能な青年アレック・リーマスは、WWⅡのころから英国情報部の仕事をしていた。ナチス支配下のオランダやノルウェーで諜報活動をした後、冷戦期になってベルリンで活動する。東ドイツでの諜報網を束ねていた彼は、東ドイツ情報部副長官ムントに諜報網を潰されるという失態をしてしまった。最高会議のメンバーをひとりスパイに仕立てたのだが、彼の愛人から情報が洩れて彼も殺されてしまったのだ。
帰国したリーマスは閑職に追いやられ酒浸りになり、経理課員として横領事件も起こしてしまう。クビになった彼は、職を転々とするが最後に得た図書館の職も、暴力沙汰で収監されて失う。出所した彼に接近してきたのは、東側のスパイたち。過去の諜報活動について話せば、ソ連に連れて行ってくれてカネもくれるという。
それに乗ったリーマスだが、東ドイツで尋問を受ける羽目に。ムントの配下で上司にもまして冷酷なフィードラーは、東ドイツに残っている英国のスパイをあぶりだそうとしてリーマスをおびき出したのだ。困惑するリーマスだが、経理課時代に「転がる石」という作戦で東ドイツに資金が流れていたことを思い出す。
実はリーマスは、管理官という上司の指示でムントにスパイの嫌疑をかけて失脚させる作戦に従事していたのだ。ただ、リーマスは100%管理官を信じているわけではない。自分の知らない何かに利用されている可能性もあるのだ。英国内でリーマスの失踪が新聞に取り上げられたのは、果たして彼への援護なのか、裏切りなのか?
派手な立ち回りなどはなく、心理的に追い詰められる孤独なスパイの静かな活躍を描いて、ベストセラーになった作品でした。以前から買ってあった本書の続編「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」をようやく読むことができますよ。