2023年発表の本書は、ウクライナ戦争を研究して新時代の戦争の在り方を論じた書。防衛研究所政策研究室長高橋杉雄氏が取りまとめを行い、3つの分野(抑止論・宇宙戦・サイバー戦)の専門家が各章を執筆している。国や勢力が他のものをどう対峙するかは、
1)バンドワゴン戦略 「勝馬に乗る」的な協力をする
2)バランシング戦略 対決なり競争なりをする
の2つがあって、冷戦後多くの東欧諸国は1)を選んでNATO入り、ロシアは2)を選んだ。今世紀になってウクライナが1)を選ぼうとしたのが、直接の引き金。世界的にみるとロシアは中国に1)で乗っかることで、欧米に対抗できると考えた。また米国は、中国との2)で忙しく、ロシアを重視しなかった。とどめはロシアの諜報機関が「インテリジェンスの政治化*1」で、ウクライナはすぐ倒れるとプーチンが判断したこと。
なぜ侵攻を察知した欧米の抑止が効かなかったかについては、
・ロシアが現状変更してもOKと判断した
・核兵器の戦略バランスが安定していた
・欧米の探知情報開示や経済制裁の脅しは無効だった
などが示される。これらは台湾海峡の緊張についても、類似のことが考えられる。
戦場は宇宙にも広がり、商業宇宙システムも加わって、測位・航法、情報収集、通信などを支えている。宇宙システムへのサイバー攻撃や電子(電磁波)攻撃も現実のものとなり、これらの防御やレジリエンスも重要になった。
ロシアのゲラシモフ参謀総長は、情報&サイバー戦とリアル戦を4対1で行う戦略を描いていた。クリミアでは、
1)情報(認知)戦で、ロシアの正当性を植え付け
2)サイバー戦で、重要インフラ等を麻痺させ
ほぼ決着をつけた。
3)実際の軍の進駐
は形式だけのものだった。しかし今回は、ウクライナ側が米国企業らの応援を得て、情報&サイバー戦で勝たせなかった。これが戦争長期化の主原因である。ただロシアの認知戦は欧米(&日)の選挙等でも展開されているので、対応策(経済安全保障?)が必要。
さて、表題の「終わらせ方」だが、残念ながら早期の決着は、ロシアかベラルーシの政変しかないとある。他に、
・朝鮮半島のような、現状勢力圏で線を引いた休戦
案はあるが、これでは恒久的な平和は来ない。結論に意外性はないのですが、各章の分析はとても面白かったです。
*1:諜報機関が政治に忖度したとの意