2007年発表の本書は、歴史(戦国)作家和田竜のデビュー作。実は2003年に脚本として完成していたものを、小説に改めたものである。スペクタクルシーンはあるものの、映像化がしやすかったのだろう、2011年に映画化されている(主演野村萬斎)。
戦国末期、太閤豊臣秀吉の天下統一はあと一歩のところまで来ていた。残る大物は小田原に本城を置く関東の雄、後北条氏。再三の恭順勧告に応じない北条氏政らに対し、太閤は60万の兵力を動員して討伐を開始した。日本有数の規模の城である小田原城のほか北条側の支城は多いが、太閤の大軍はそれらを全て呑み込むほどの勢いだ。
武州城には、石田三成を総大将にした2万の軍勢が迫っていた。当主成田氏長は凡将で、密かに太閤に内通しながら小田原に戦力の半数(500騎)を連れて参陣していった。残されたのは血気にはやる猛将3名と、城代である氏長の弟長親。長親はうつけと評判で、領民木偶のぼうの意味で「のぼう様」と呼ぶ変わり者。
大男だが鍛えてはおらず、一切の武芸・運動は苦手。領民の田植えを手伝うのが大好きだが、全く役に立たず「見ていてくだされ」とダメだしされる始末。そんな城代の手元には500騎しかいないが、相手は2万。ただ忍城は周りを湿地、水田に囲まれた「浮き城」で、大軍が攻め寄せるのは難しい。
三成軍の使者があまりに尊大だったことから「闘いまする」と見えを切った長親を見て、家臣はもとより百姓までが「のぼう様のためなら」と参陣してくる。攻めあぐねた三成は、太閤が高松城攻略に使った「水攻め」を考えるのだが・・・。作者は、人を喰った長親の言動、それを慕う領民や家臣と、大軍ながら結束できない三成軍を対照的に描いてゆく。
映画も見た記憶があり、小説もほぼ同じ展開で楽しませてくれました。後に関ケ原で敗れる石田三成、その最大の失敗をヴィヴィッドにユーモラスに描いた作品でした。