2014年発表の本書は、元国務省アフリカ局次官補代理トッド・モスのデビュー作。作者はタフツ大・ロンドン大で博士までの学位を取り、世界銀行にも勤務したエリート学者。ジョージタウン大学客員教授、シンクタンクCEOの傍ら、執筆活動をしているというから驚く。
国務省時代にはコンドリーザ・ライス長官の命で、モーリタニアのクーデター現場に派遣されたこともある。その経験を生かしたのが本書で、テーマは「クーデターは起きて100時間が勝負」である。
主人公ジャッド・ライカー博士は「100時間」をクーデター鎮圧の黄金の時間とする論文を発表し、国務省危機対応室の責任者に迎えられる。アフリカの中でも知人も多いマリで、民主的に選ばれたマイガ大統領が拘束されるクーデターが発生した。
大統領を支えていた将軍2人のうち、ディアッロ元参謀総長は2年前のクーデター未遂で国を追われ、ロンドンに亡命中。今回はもう一人の将軍であるイドリッサ現参謀総長が決起したらしい。国務省やCIAは事実関係を確認しようとするが、現地でボランティアをしていた上院議員の娘ケイトが誘拐されてしまった。誘拐犯とクーデターの関係は不明だが、ケイトはネット上で「この地域から米軍が撤退しないと解放されない」と訴えてくる。
ライカーは特殊部隊のブルことダーラム大佐に護衛されて現地へ飛び、以前共にテロにあって負傷した駐マリ大使と善後策を練る。サハラ砂漠を含め広大なマリの国土を駆け回るため、ダーラム大佐はブラックホークを調達してくれた。英国情報部も協力してくれ、ディアッロ元将軍を現地に送ってもいいという。「誰が天使で、誰が悪魔か分からない」状況の中で、ライカーたちは・・・。
いかにも軍事スリラーの建付けなのだが、見どころは武力行使ではなく外交とそのための情報収集。CIAや国務省とは別のライカー独特のHUMINTがユニークだ。大したアクションはないのに、400ページが短く感じる作品でした。危機管理外交の実態を垣間見させてくれましたよ。