1986年発表の本書は、英国作家アレグザンダー・フラートンのフォークランド紛争もの。作者は第二次世界大戦で潜水艦勤務と情報部勤務(ロシア語を買われてソ連班だった)をし、戦後も潜水艦に乗り組んだ後1953年から作家に転じている。重厚な作風で<海の異端児エバラードもの>で人気を博した。
冷戦期英国が巻き込まれた本格的な戦闘といえば、フォークランド紛争。アルゼンチンが領有を主張し実効支配をしようとしたところ、サッチャー政権は断固戦うと決め唯一の空母艦隊(といってもVTOL機ハリアーしか運用できない)を送った。アルゼンチンも各国(&闇マーケット)から調達した新鋭兵器で迎え撃ち、冷戦期には珍しい海空戦が展開された。
英国艦隊の脅威となったのが、エグゾセミサイル。これをシュペールエタンダール攻撃機から発射し、実際駆逐艦<シェフィールド>などを沈めている。そんな紛争を背景に、SASと並ぶ英国特殊部隊SBS(Special Boat Sevice)の活躍を描いたリアルな軍事スリラーである。
アルゼンチン本土に残る10発ほどのエグゾセを無力化せよとの命令を受けたのは、巨漢クラウズリィ中尉率いるSBSの精鋭5名。スタート中尉は先乗りでアルゼンチンに渡り脱出拠点を確保する。駆逐艦<シュロプシャー>から残り4名と、現地育ちの商社マンアンディが出撃する。
アンディの友人で80歳ながら歴戦の勇士トムの牧場を拠点に、エグゾセの保管庫に潜入するミッションだ。しかしアンディの生家で兄ロバートの牧場も付近にあり、ロバートはアルゼンチン軍の司令官になっていた。「可能な限り発砲せず、敵兵と言えど殺したくない」との思いでクラウズリィ中尉らは厳寒のマゼラン海峡に潜入する。しかしアンディが思わぬところで目撃されてしまい・・・。
なかなかヴィヴィッドな軍事スリラーでした。フォークランド紛争の実相もわかって、かなり「お得」な作品と思います。