2022年発表の本書は、マクロ経済学が専門の東大経済学部渡辺務教授の国際経済論。今も世界経済はインフレにあえいでいて、欧米各国は政策金利を5%ほどにまで上げ引き締めを図っているが、容易にインフレ退治は出来そうもない。
石油や穀物といったコモディティ価格が上昇したのはウクライナ紛争のせいだが、実はそれ以前からインフレは始まっていたと筆者は言う。「真犯人」はパンデミックで、
・サービス産業が急速にシュリンク、職場を離れる(*1)人が増えた
・パンデミックが収まっても人は戻らず、人手不足が深刻化
・グローバリズムが止まり、安く買って高く売るビジネスモデルが後退
・感染拡大を悲観(*2)した消費者が、行動変容して消費しなくなった
だったとの主張。一時期供給を絞ったので、需要が回復し始めても供給が元に戻らないゆえのインフレ要因が大きい。
ただ、日本だけは事情が異なる。欧米に比べるとインフレ度は極めて低く、長く続いたデフレ脱却できているかどうか(2022年時点では)怪しい。日本経済は長く「慢性デフレ」の病を患い、パンデミックのせいで一部商品の「急性インフレ」症も併発したのだが、統計にしてしまうと「低いインフレ度」となってしまっているのだ。筆者は今後の日本経済が2つのどちらの道を行くことになるかと問いかけている。
2)慢性デフレからの脱却
もちろん後者がいいのだが、現時点でもそうなったかどうかは判断が難しい。問題は賃金が凍結してしまっていることで、これを解凍するには、
・物価上昇の予想が広く共有される
・賃上げ分を少なくとも価格転嫁できる
・労働需給がひっ迫する
の3条件が必要だとある。
僕としてはパンデミックで各国政府がバラマキをやり、マネー供給が増えすぎたのがインフレ原因だと思っていましたが、それは全く触れられていませんでしたね。
*1:含むテレワーク
*2:SNS等で拡散する情報が悲観を強めた