新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

魔王は不意にやって来る

 1993年発表の本書は、昨年「女検死官ジェシカ・コラン」を紹介したロバート・ウォーカーの第二作。被害者の生き血を絞りながらじわじわ殺し、血を飲むことに無上の喜びを感じる現代の吸血鬼と闘い、重傷を負ったジェシカは今度はニューヨーク(NY)で「食屍鬼(グール)」と対峙する。

 

 ようやく杖を使って歩けるようになったジェシカは、NYで頻発する猟奇事件の捜査に加わるよう要請された。要請したのは、NY市主任検死官のダライアス医師。高名な検死官だが、高齢でもありこのところ体調が良くない。部下のアーチャー検死官ともソリが合わないようだ。この連続殺人事件の犯人は<カギ爪>と名乗り、手袋に3枚の刃物を固定した武器で被害者を襲い切り刻む。さらに、

 

・腹部を割いて腸をとりだし、死体の周りに積み上げる

・内臓に直接かぶりつき、歯型をのこす

・臓器や眼球を摘出して食べる

 

 という異常行動をとる。すでに6名の被害者が出ているが、女性であること以外の共通点はない。年齢も20~70歳代と幅広い。

 

        

 

 メインの事件の前に、すでに収監されている殺人犯が刑務所で自殺したとの連絡がジェシカの下に届いていた。自分の中にもう一人の自分が現れ、魔王のように支配し殺しを命じたと主張していた。魔王は不意に現れて、彼を乗っ取ったというのだ。自殺死体に触れると「魔王が感染する」とおびえる刑務官もいる。

 

 NYの事件も、死体に残された歯形を始め、多くの物証がある。この犯人も「魔王にとりつかれた単独犯」とするアーチャー医師に対し、歯形は1人のものだが複数犯ではとジェシカは疑う。

 

 捜査とならんで直に犯人側の事情が語られるのも、このシリーズの特徴。実行犯(のひとり)である男は、依存していた母親の死後<カギ爪>がやってきて、犯行を強制するという。死肉を食べるのも<カギ爪>の嗜好で、自分はそっと吐き出していると独白する。

 

 ジェシカはNY市警のリックマン警部の助けを借りて事件を追うのだが、前作同様<カギ爪>のターゲットになってしまう。すでに女性警官まで殺して食べた<カギ爪>は、美しく強いジェシカの肉を食べたいと、爪を磨いていた。

 

 前作以上に猟奇的なシーンの多い作品、数ページで読み進めなくなる人もいるかもしれません。まあ、そんな人は最初から書店で手に取らないでしょうがね。