戦略学の権威で国際政治学者のサミュエル・ハンチントン博士が、「文明の衝突」を著したのが1996年。「21世紀日本の選択」は1998年の発表だった。本書は2000年に邦訳出版され、新刊書で買った記憶がある。それを再び読む気になったのは、おおむね四半世紀が経ち、現実との検証をしたかったのと、米中対立や欧米での分断の原因を知りたかったから。
冷戦が終わり、米国という超大国が大きな力を持っていた20世紀末。それでも、
・他にも独自色の強い日本文明、ヒンドゥー文明、東方正教会文明らが存在する
とある。文明はそれ同士で衝突するし、文明の中でも民族的・宗教的・人種的・言語的な集団同士で衝突する。互いの憎しみ度合いによっては「民族浄化」までエスカレートすることもある。
中国は長く覇権国だったが、西欧文明に虐げられて現在その失地回復にいそしんでいる。鄧小平路線が順調に進めば、東アジアの覇権を巡って米国と対立する。朝鮮半島よりは、台湾海峡の危険が高い。その時日本の選択は日米同盟堅持だろうが、米国は慈悲深い覇権国でないことは覚えておくべきだ。
米国を含む西欧諸国は、自らの文明を他の国に(ある程度)押し付けてきた。しかし多文化共生の道も開けつつある。例えばクリントン政権は、自国内での多様化を推奨する政策(多文化主義)を採った。しかしかつてセオドア・ローズベルトがした警告「国を破滅に追いやる唯一の方法は、民族同士のつまらぬ争いをする混乱を黙認すること」に背いたことになる。
ハンチントン博士は米国の将来を憂えたのだが、同様の傾向は西欧諸国にも広がり、多文化共生ではなく、多文化併存の社会を作ってしまったと思われる。英独仏で起きる移民排斥運動、極右の台頭や、米国のトランプ現象と分断は、博士の懸念通りになったということだろう。
当時一世を風靡した、しかし難しい文明論でした。今、その正しさが(不幸なことに)証明されたことになります。