本書は、先週「戦場の都パリ」を紹介した軍事史作家柘植久慶の「世界の暗殺史」。2003年の文庫書下ろしで、新刊本で買った。長らく本棚に眠っていたものを、先月のトランプ候補暗殺未遂事件をきっかけに、探し出して再読した。
筆者は、バビロニア時代(紀元前23世紀)から現代までの、約300件の暗殺事件をリストアップ。そのうち50件について数ページの記事にまとめた。その他のものについては、本書の後半に年表形式で短いエピソードを付記している。50件のうち、印象に残ったものを紹介しよう。
◆アルプレヒト・フォン・ヴァレンシュタイン
神聖ローマ帝国の卓越した傭兵隊長。再三戦功を挙げながら皇帝と折り合えず、隠棲してもなお皇帝の暗殺者に襲われた。
◇西太后と光緒帝
4歳の甥を帝位に付け権勢をほしいままにした西太后だが、成人した光緒帝と路線対立。なんと1日違いで2人とも死んだ。暗殺し合ったと思われる。
◆ジャン・ド=ラトル・ド=タシニィ
ド=ゴールと並ぶフランスの英雄。インドシナ半島を収めるため派遣されたが、暗殺された。公式発表は事故で、彼が生きていればインドシナの平和はもう少し続いたと筆者はいう。
◇ダグ・ハマーショルド
スウェーデンの政治家で国連事務総長。コンゴのカタンガ州分離独立運動を収めようとローデシアに向かい、航空機もろとも撃墜される。これも事故と発表されたが、対空火器によるとの証言もある。筆者は現場近くにいて、暗殺計画を遂行している情報をつかんでいた。
優れた軍人でも、警戒を緩めた瞬間を狙われて殺されている。まあナチスのラインハルト・ハイドリヒ(SS司令官)のように、決まった道をオープンカーで往復していれば殺されても仕方あるまい。またトロツキーを執拗に狙い続けた、スターリンの執念もすごい。
ケースとしては、王朝のような組織内の対立によるものが多かったです。さて、この約300件のリスト、今後どこまで延びていくのでしょうか?