新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

才人クライトンの遺作

 2008年、「アンドロメダ病原体」「ジュラシック・パーク」などの著作で知られるマイクル・クライトンが亡くなった。享年66歳。作家として脂ののった年代なのに、喉頭がんで世を去った。まことに残念である。死後、使っていたPCから、2つの未発表作品が見つかった。本書はそのうちの1冊。完成していたため、すぐに出版され映画化も検討されている。もう1冊「Micro」は未完成だったためリチャード・プレストンが手を入れて、共著の形で出版されるらしい。

 

 ハーバード・メディカル校の卒業生である著者は、SFをずっとリアルな「Science Fact」の領域に高めた。さらに医療ドラマ「ER」の原案を出し、サスペンス・謀略小説も手掛け、映画も作った。遺作となった本書は、17世紀半ばのカリブ海を舞台にした歴史小説である。主人公のチャールズ・ハンターは、私掠船<カサンドラ号>の船長。普通の海賊と違うのは、英国政府(王?)のために強大な敵国スペインを苦しめるために強奪行為を行うこと。またハーバード卒のインテリであり、無用な血を流させないなど自分なりの矜持を持っていることだ。

 

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 広大なカリブ海の大半はスペイン領、英国はようやくジャマイカ島を支配して、ポート・ロイヤルを使って交易しているだけ。猖獗を極める島で、特産品としてはラム酒くらいしかない。交易が頼りだが、往来するのはスペイン船ばかり。そこで「英国政府公認の私掠船」が登場するわけだ。今回莫大な財宝を積んだスペイン船が船団とはぐれ、要塞島マタンセロスに停泊しているとの情報をつかんだジャマイカ総督は、ハンターにその船を奪ってこいと指令を出す。

 

 要塞島は多くの重砲と兵士に守られていて、正面からは攻略できない。ハンターは、火薬の専門家・水先案内人・操船技術者・殺し屋など一芸に秀でた者たちを集め、スループ艦<カサンドラ号>で出港する。そこからは、息つく暇もない大活劇。剣劇・攻略戦・ガレオン船(戦艦級)との海戦・巨大海生生物(クラーケン?)からの脱出・風速80mものハリケーンとの闘いなど、全てが盛り込まれている。

 

 日本人には馴染みのないカリブ海での海賊譚。作者の芸風の広さが際立った作品でした。繰り返しますが、遺作となったのは残念です。