本書は、2007年に文芸春秋に発表された歴史家の対談を新書化したもの。歴史探偵半藤一利氏と文芸評論家福田和也氏が2つの対談に加わり、
・海軍編 海軍史研究家戸高一成氏、秦郁彦日大講師、平間洋一元海将補
が議論している。副題にあるように「国家を破滅の淵に追いやった」彼らだが、エリートでありながら国家ではなく組織のためにのみ考え行動した「組織の病理」が見えてくる。例えば、
◆陸軍
・昭和になっても<長州閥>の影響が残り、エネルギーの多くが派閥抗争に注がれた
・幼年学校~陸軍大学のエリートは視野が狭い、良識派は幼年学校からは出なかった
・陸大は師団参謀を育てるのが目的で、戦術級に特化した教育をしていた
・視野の広い代表永田鉄山は暗殺された。彼がいれば太平洋戦争は無かったとの意見も
・上層部は空気に支配されがち、佐官クラスの独断専行を止めることもなかった
・天才戦略家石原莞爾は、独断専行のお手本となる一方、組織内では孤立した
◇海軍
・日露戦争での成功体験と非合理的な考え方が、上層部に蔓延していた
・海軍の主敵は陸軍、天皇の統帥権を侵す海軍省は(軍令部以下)現場の敵
・長く軍令部に君臨した伏見宮博恭王の専横人事が、良識派や逸材を廃した
・その結果、戦えば必ず敗れる英米に対しての開戦を阻止できなかった
・酸素魚雷もゼロ戦も、決戦兵器だった大和級戦艦も、大きな欠点を持っていた
・開戦後も定期異動、年功人事が改まらず適材適所には程遠かった
最後に「同一性の強い集団主義は長所でもあるが、一つ間違えると結局その組織を破滅させてしまう」と歴史家が言う。この教訓こそが、太平洋戦争という愚挙が、我々に遺してくれたものかもしれませんね。