新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヴェトナム戦争の傷

 本書は、グアテマラ生まれの作家パトリシア・M・カールスンの作品。解説によれば統計コンサルタントで素人探偵のマギー・ライアンを主人公にしたシリーズの第六作、少なくとも8作あるはずなのだが邦訳されたのは本書ともう1冊だけ。残念ながら「好奇心あふれる人情家マギー」の活躍は、日本の読者にはアピールできていない。各作品には年代が明記されていて、その時代のトピックが背景として取り上げられている。本書は1990年の発表だが、時代は1975年の真夏。ヴェトナム戦争が終わって、その傷に米国全体が苦しんでいたころに設定されている。

 

 ニューヨークに住んでいるマギー一家だが、今回はバージニア州のビーチに住む兄夫婦のもとを訪れ、事件に巻き込まれる。マギーの夫ニックは俳優、幼い娘サラがいて、マギーは妊娠7ヵ月。兄のジェリーは医師、妻のオリヴィアは新聞記者だ。

 

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 オリヴィアの同僚であるデイル・コルビー家と、マギーたちは真夏の一日をビーチで過ごし午後9時ころにコルビーの家に戻った。デイルだけは事件を追って記事を書いていてビーチに行かなかったのだが、マギーは密室状態の書斎で死んでいるデイルを見つける。真鍮製のスタンドで殴り殺されたらしい。現場からは、デイルが取材したテープが消えていた。

 

 捜査を担当する女刑事ホリーは、元ヴェトナムの従軍看護婦。悲惨な野戦病院の日々でトラウマを抱え、刑事に転職している。デイルが追っているのは半年前の小型機爆破事件、上院議員が乗るはずだったフライトでもありテロが噂されるが、このパイロットもベトナム帰りだ。名探偵のはずのマギーの影は薄く、同僚を殺されたオリヴィアとホリーの執念の捜査が印象的だ。何度もでてくる台詞が「ジョン・ウェイン型の戦争」、作者はどうも民主党員らしい。何人も登場するヴェトナム帰りやその友人は、ゲリラへとの戦闘・反戦運動・終わりなき苦闘・PTSDなどに蝕まれ、平常心を失っている。

 

 原題の「Dog Days」とは真夏日の意味だが、オリヴィアが対峙する帰還兵が飼っている「サージ(軍曹)」という名のジャーマンシェパードにも掛けてある言葉だ。面白そうな素人探偵の設定なのですが、いまいち魅力は伝わらず・・・密室の謎解きも拍子抜けでした。