2001年発表の本書は、トム・クランシーとマーティン・グリーンバーグのコンビが送る私設特殊部隊<剣>シリーズの第四作。クランシー作品としては比較的短いのがこのシリーズの特徴だが、全8作のうち本作だけが上下巻になっている。巨大防衛産業アップリンク社のオーナーCEOロジャー・ゴーディアンは、世界で起きる紛争やそのタネを収めるために、警備・諜報・保安組織を社内に持ち、さらに実働部隊<剣>も組織していた。
今回の敵は、謎の犯罪組織の長ディヴィエン。最新の遺伝子技術を使って開発された、全く新しいウイルスを世界中に撒き散らしている。ただこのウイルスは特定の条件が満たされないと「覚醒」しない。ヒトの何らかのDNAを後で設定して、追加の措置をとれば、特定の誰かや特定の集団のみを感染させることができるのだ。
すでに、南米某国の大統領からは政敵を葬るため、アフリカ某国の首長からは自国内の特定の民族を「除去」して土地を奪うための引き合いが来ている。ウイルス自身は、人が密集するところ、ニューヨークの証券取引所や旅客機の中など数カ所で散布済みである。
最初のターゲットに選ばれたのは、犯罪組織から目の上の瘤のように思われているロジャー。アップリンク社の中のスパイ役に「覚醒」用の薬剤を与えられたロジャーは、病に倒れる。米国のウイルス学者たちはロジャーの血液サンプルから、恐ろしいものを発見するが、すでにロジャーは危篤に陥っていた。
PCR検査とか選択的RNAとか、20年後「COVID-19」禍で聞くことになる言葉が何度も出てくる。どこまでが科学でどこからが創作かは分からないが、専門的な調査をしてリアリティを高めようとした作者らの努力がうかがえる。
最後はオンタリオの北の秘密バイオ研究所に<剣>の部隊が突入して、CEOと全人類を救うデータを入手しようとする。活劇よりも、サイエンスホラーの色が目立つ作品でした。