2021年発表の本書は、北京特派員経験もある朝日新聞記者福田直之氏の、中国デジタル社会レポート。「20世紀はオイルの世紀、21世紀はデータの世紀」と言われるように「Data Driven Economy」時代になっているが、データの利用にはいくつかの制約がある。特に個人情報利用の制約が緩いのが、中国(*1)。市民にしても「生活が便利になるのなら、個人情報を登録すること/利用されることにためらいはない」という感覚である。
AIは大量の(正しい)データを得て成長するのだから、中国は「AI大国」になりうるし、現に多くの分野でそうなっていると筆者は言う。例えば、
・個人の信用を数値化(*2)して、社会的に広く活用
・現金の使い道がないほどのキャッシュレス社会
・QRコードから生体(顔・静脈等)認証で手ぶらショッピング
・自動運転による物流無人化
という次第。これらのシステムにはAIが活用され、急速な精度向上に寄与している。米国とのAI活用指数比較(米:中)では、
総合 45:32
産業発展 16:4
人材 7:2
研究 7:4
ハードウェア 6:2
と劣勢だが、
社会利用 1:8
データ量 8:12
と優位に立っている。基礎技術では劣っていても、利用分野やデータが優位ということは、伸びしろは大きいことになる。一方民間だけがAIを活用するわけではなく、顔認証を使った監視社会化も進む。本本ではデモ参加者がマスク等で顔を隠しても、当局は人物を特定できたという。
また西側による半導体規制も重石だ。製造装置や素材、GPUのような高性能半導体(上記のハードウェア)では、差が縮まらない。「データがオイルなら半導体は内燃機関」として、Huaweiらは半導体技術開発にも注力しているが、それで逆転できるのか。
さて、このAI&データ戦争、どう推移するでしょうか?
*1:逆に国家情報の管理などは数段厳しく、死刑もありうる
*2:芝麻信用