新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

バンコラン予審判事、最後の挨拶

 1937年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーの<アンリ・バンコランもの>。作者の初期作品4作に登場するパリの予審判事で、メフィストフェレスのような風貌をして怪奇な事件を解決する名探偵である。

 

 作者は30歳が近づくと、この(ある意味薄っぺらい)探偵に限界を感じ、物理的にも人格的にも厚みのあるフェル博士やH・M卿といったイギリス人の名探偵を起用するようになる。彼らの活躍が軌道に乗ってきたところで、本書はバンコランが戻ってきた。これ以降の作品に彼は登場せず、バンコランの最後の事件となった。

 

 ロンドンの青年弁護士カーティスは、パリ在住のイギリス富裕層ラルフ・ダグラス青年からの依頼でフランスに派遣される。ラルフは良家の子女マグダとの婚約が調ったのだが、1年ほど前に別れた高級娼婦ローズとの腐れ縁に悩んでいた。

 

        

 

 結婚の前にローズから何らかの嫌がらせが無いように、彼女と交渉するのが依頼内容だ。ローズが住むパリ郊外の屋敷を訪れたカーティスは、死体となったローズを発見する。その部屋には、拳銃・カミソリ・大量の睡眠薬・短剣と4つの凶器があった。検視解剖の結果、睡眠効果のある抱水クロラールを致死量飲んでいることと、脇の動脈が短剣によって傷つけられていたことが分かる。

 

 ローズの家の家政婦によると、ラルフらしい男が訪ねて来てその夜に彼女は死んだのだが、視力の弱い彼女が確認しただけなので、ラルフになりすました誰かだったかもしれない。

 

 事務所の上司から「困ったらバンコランを訪ねよ」と言われていたカーティスの前に、隠棲して少し(人格的に)丸くなったバンコランが現れる。彼はローズの宝石がいくつか無くなっていることに目を付け、事件の真相に迫っていく。

 

 僕自身は、作者の怪奇趣味や冒険譚指向は嫌いではないのですが、探偵役はあまり買っていません。中でもバンコランは嫌いで、この作品も昔は買わなかったのです。まあ、最後の挨拶ということで、義理は果たしましたよというのが本音です。