本書は2010年に発表されたが胡錦涛政権では発禁とされ、習近平政権になった2013年に再版され、2020年に加筆されたもの。日本語訳(2023年)以前に米国では翻訳書が出版され、米国国防予算を50億ドル増やすことに寄与したという。著者の劉明福は山東省生まれの軍人、出版当時の階級は上級大佐。習政権のブレーンとなって、現在も中枢にいるとされる。
日本語版の出版にあたり、著者は本書の目指す「夢=2049年の姿」をこう紹介している。
・中国は世界の金メダル国家。強大だが、覇権を求めない近代国家
・解放軍は世界最強の軍隊。侵略したこともなくすることもない文明的な軍隊
・統一は台湾が祖国の胸に回帰することで完成。海峡は海底トンネル等で交流多
・英国の植民地主義、米国の覇権主義が終わり、世界は第三の「人類主義時代」となる
日本に対しては、米軍の駐留を終わらせ日本の独立を実現するのが中国だが、中国は決して駐留しないと協力を求めている。手段として「中国は平和的解決を堅持するが、主権や統一、台頭は平和より尊い」とも述べ、軍事力行使を否定していない。
台湾統一については、米国が南北戦争で南部に勝って併合したことを参考にしている。英国の干渉を外交で排除し一国一制度を完遂したものの、市民や施設、インフラ等に大きな被害を与えてしまった。その良い点を活かし、被害を極小化するのが台湾統一の在り方(*1)。
台湾の他に、中国は7つの戦線を抱えていて、朝鮮半島・インド国境・ウイグルでの紛争は回避したい。南シナ海では主権を掲げ、東シナ海では米国に教唆された日本の抵抗を排除する。香港が反中の拠点となることは容認しない。最後に(マラッカ海峡などの)シーレーンは必ず守る。そのためにも海軍の充実は避けられず、海洋からの平和を樹立する。
マハンやなど欧米の軍事史家を何度も引用し戦略を語る一方、サイバー空間(*2)を含めた軍備の充実を求めています。ただそれは「世界平和のため」というのが貫かれた主張で、核兵器に言及はほとんどありません。本書は習大人の指針だというのですが、本当でしょうか?
*1:この章は中国での販売時は削除されている
*2:イデオロギーの浸透に役立つ