新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

河島家の遺産数百億円

 本書は先月「神津恭介への挑戦」を紹介した、高木彬光の「恭介平成三部作」の第二作。前作で東洋新聞の社長令嬢清水香織が登場し、恭介を伊東の別荘から意見現場に引きずり出すようになったとの設定である。前作ではあまり目立たなかった香織自身の捜査活動だが、本書(1993年発表)では十分な活躍を見せてくれる。

 

 というのも、彼女自身が第一の事件の現場に居合わせ、犯人を追いかけていくのだから。東京のDホテルではその日、このホテルチェーンのオーナーでもある財閥河島家の長男幸一の結婚披露宴が行われていた。新婦は香織の大学時代の友人裕美、大学卒業後モデルの仕事をしていたスタイルの良い美人だ。幸一は10歳ほど年上で、バツイチなのだが、裕美にとっては「資産数百億円」の家への嫁入りで、玉の輿と言えた。

 

 ただ悩みは、裕美の前の恋人というのが河島家の次男悟。芸術家として裕美をモデルに裸婦像を描いているうちにねんごろになったのだが、幸一は悟から裕美を奪った格好になってしまった。香織ら新婦の友人たちの懸念は、披露宴に姿を見せない悟のことだった。すると巨大なウェディングケーキが運ばれてきて、運んできたボーイが悟に似ていることに香織が気づいた。

 

        

 

 それを確かめる間もなく、ボーイに化けていた悟が幸一を刺殺、そのまま逃亡したのだ。すぐに警察が手配をして、逃亡を図った悟は、大学時代の友人の店の駐車場でガソリンをかぶって自殺してしまった。事件は決着かと思われたのだが、新妻の裕美が殺されるに及んで、河島家の遺産狙いの連続殺人の可能性が出てきた。長男・次男・長男の嫁が死に、長女ひとりが残った。当主健一郎は病床にあり、明日をも知れない。

 

 もうひとつ捜査陣を悩ませたのが、裕美の死に方。真夏に自宅のバスルームで凍死していたのだ。ドライアイスを使った形跡もなく、普通の氷では冷やせない温度で殺されたのだが、その手法がわからない。香織は(前作に続いて)再び伊豆の別荘に恭介を訪ね、捜査協力を依頼する。恭介は「香織さんのお願いは怖いからね」と苦笑いしながらも、時期が来れば犯人は姿を現すという。

 

 前作同様、原点に立ち返ったような本格ミステリーでした。科学的、機械的トリックで、マニアを十分楽しませてくれました。あと1冊、三部作の最終作が手に入りません。なんとか探さないと。