新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

人生100年時代のハードボイルド

 昨日、還暦を迎えた女4人組の話「暗殺者たちに口紅を」を紹介した。軽快なスパイスリラーだったが、今時60歳は老人とは言えない。そこで敬老の日の今日、手に取ったのが、2012年発表の本書。ニューヨークの弁護士ダニエル・フリードマンのデビュー作で、マガウティ賞の新人賞も獲得し、映画化も予定されている。

 

 主人公のバック・シャッツは、ユダヤ人で元メンフィス署の名刑事。87歳になってアルツハイマーの影に怯えてはいるが、.357マグナムと警句は衰えていない。死の床にあった戦友から「捕虜収容所であんたに親切ではなかったナチの将校が生きているかも」と知らされる。

 

 戦友は、死んだと思われていたその将校ジーグラーを戦後に見かけていた。しかも彼は高級車に(ナチの)金塊を積んで逃走していったという。バックは衰えた体に鞭打って、手掛かりを探す。助けてくれるのは孫のビリー、バックにはさっぱりわからない<インターネット>を使える。

 

        

 

 やがて、ジーグラーが戦後米国に渡ってきたことがわかる。彼も認知症を患い、老人施設にいるのだ。2人は米国名を持つ彼に会いに行き、金塊のありかを知る。2人が金塊を奪取しようとする一方、何者かが2人を狙ってくる。残忍な敵で、戦友の葬儀を行った神父や、ビリーに近づいてきたユダヤ女が切り刻まれてしまう。

 

 ジーグラーになりすまし、貸金庫から金塊を奪うシーンが笑える。ボケかかったパーキンソン病患者を装い、サインをごまかして銀行を欺く。加えて、格好いいシーンも一杯。「真犯人を探すのは簡単、向こうからきてくれる」というセリフには痺れた。周りの白い眼も気にせず、やたらとラッキーストライクの煙を吹く。しかし、ライフルで撃たれ集中治療室に入ったバックを、真犯人が襲う。身動きできないベッドの上で、1対1で対峙したバックに勝機はあるか?

 

 自分では訳が分からないのに、YouTube上のヒーローになってしまった結末は笑えました。ずっと指導してきた孫に、この点ではかなわなかったようで。