新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

訪ねてきた78歳の大泥棒

 昨日に引き続いて、ダニエル・フリードマンの<引退刑事バック・シャッツもの>の第二作(2014年発表)を紹介したい。前作「もう年はとれない」で犯人に銃撃されたバック。九死に一生は得たものの銃創や骨折がなかなか治らず、今は妻のローザと介護付き老人ホームで暮らしている。ようやく介助なしにトイレやシャワーが使えるようになっただけで、歩行器のお世話になっている。

 

 ヘルパーに悪態をつき、食事がまずいと怒鳴る困った老人だが、ローズには優しい。そしてトレードマークの「記録帳」と.357マグナムは、常に手元にある。そんな彼のところに、同じユダヤ系で、現役時代は張り合った(?)大泥棒のイライジャが訪ねてくる。「なんでも盗めないものなし」が看板の男だが、すでに78歳。何者かにつけ狙われているらしく、

 

・命を守ってほしい

・もし殺されたら、復讐して欲しい

 

 とバックに依頼するのだ。

 

        

 

 現役時代にバックがイライジャの銀行強盗にかかわった事件と、現在イライジャが何者かに追われている事件が並行して描かれる。イライジャはまず完璧と思われる防御の金庫室から、大量のドル紙幣を盗んで見せる。その手口は鮮やかなもので、ナチの収容所を抜け出すときに覚えたテクニックの応用だ。

 

 ユダヤ人仲間でもある2人は、好敵手でもあった。今回イライジャは、麻薬商人カルロのカネを盗んだらしい。取り戻せなければ自らの命がないので、カルロも必至だ。3人組の手下を繰り出し、バックや護衛の警官を負傷させてイライジャを誘拐した。バックは1人の脳天を吹き飛ばし、もう1人の足を粉々にしたが、自らも負傷する。最後もお約束の対決、片手に歩行器、他の手に.357マグナムのバックの姿は、どうしようもなく格好いい。セリフも、

 

「汚れないまま人生を終えるやつなどいない」

「どんな完璧な金庫でも、カギは誰かが持っている」

「80年もケータイなしで暮らしてきたんだ」

 

 しみわたるものばかり。前作以上の感動をくれる「88歳(米寿)のハードボイルド」でした。