新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サイバー空間に触れたリスク研究者

 2024年発表の本書は、昨日「ウクライナ戦争の200日」を紹介した小泉悠氏が、サイバーセキュリティの専門家小宮山功氏と共著したもの。小宮山氏とは親交があり、若手のサイバーセキュリティ研究者で、またJPCERTで指導的な役割を果たしている人だ。

 

 本書で2人が語り合うのは、サイバー空間とリアル空間双方でのセキュリティ。サイバー空間は目に見えないものだが、実態はコンピュータと通信網。その中心はデータセンターである。データセンターの立地条件は、

 

1)安定した電力(少なくとも2系統)が得られる

2)大量データを交換できる通信網の安定

3)安い地価や良好な交通アクセス

4)需要、消費地に近い

 

 ことのほか、法令の制約が少なく、税制が有利、技術者らが得やすいなどであれば好適地である。例えば気候が冷涼な石狩データセンターは、電力の効率性(PUE*1)は1.36と低いが、東京エリアとの通信に18msecの遅延が発生する。

 

        

 

 巨大データセンターはネット社会のグラビティ(重心)である。軍事常識では、敵の重心を叩くのが上策。それにしてはデータセンターの護りは、普通のオフィスよりちょっと厳しめなだけで、本格的な軍事行動に遭えば壊滅してしまう。

 

 また膨大な通信が国家間を渡ってゆくが、その99%は海底(光)ケーブルを通る。その陸揚げ地点も狙われやすいし、海底ケーブルへの盗聴工作・破壊工作も十分あり得る。ロシアの深海調査総局(GUGI)は、4隻の潜水艇母艦と3隻以上の水上母艦を持ち、破壊工作が可能な特殊部隊を持っている。一部は太平洋海域にも配備されている。

 

 紛争でなくても、年間100件程度は海底ケーブルの事故がある。4割ほどは漁船によるもの。日本にケーブル敷設船は2隻しかなく、レジリエンスの意味で問題が残っている。紛争ともなれば、インフラの破壊は防げないことが多く、いかに早く復旧するかの能力が問われる。

 

 千葉で始まり、長崎や石狩を経由して最後はエストニアに至った旅。サイバーと軍事の専門家による、覚えておくべきリスクの紹介でした。

 

*1:Power Usage Effectiveness、総電力消費をIT電力消費で割ったもの。1.8程度であれば比較的効率的