1986年発表の本書は、ローレンス・ブロックの<マット・スカダーもの>。得意の射撃で強盗を撃った際、跳弾で無垢の少女を殺してしまったマットは、警察を辞め無免許の私立探偵をしている。アル中になったこともあり、今は酒を断って暮らしているが、本書が取り上げる10年前の事件の時は、酒浸りの日々だった。
トラウマから拳銃は持たない彼は、ある日酒場で呑んでいて2人組の拳銃強盗に出くわす。震え上がりはしないものの何もできず、強盗は天井に2発撃って逃げた。その後も馴染みの酒場を中心に飲み歩く日々、非常に多くの酒類(ビールからスコッチ、バーボン、ジンなど)が出てくる。
酒場の経営者スキップは、裏帳簿を盗まれて困っていた。現金売りがほとんどのマンハッタンの安酒場では、$3入れば$1は帳簿外に隠すことが多い。帳簿は税務署提出用の他に、もうひとつあるのだ。

しばらくして、男とも女ともつかない声で電話があり「帳簿を返してほしければ、$5万出せ」と言う。一方マットの呑み連れトミーの妻が、何者かに寝室で刺殺される事件も起きる。トミーはその晩愛人と過ごしていて、一応アリバイはあるのだが殺人課刑事はしつこくつきまとう。2つの事件を引き受けたマットは前金で報酬を受け取り、住まいとしているホテル代や呑み屋のツケを払った。
マンハッタンやブロンクスの裏町を、マットやその友人たちが行き交う。車で移動するときも、片手にはビール缶。グローブボックスにはウイスキーボトルがある。トミーの愛人はマットにも色目を使い「私もバーボン党なの、あなたと一緒よ」という。
引き受けた事件はいずれも解決するのだが、どちらも真相は悲劇的なもの。「アメリカの夢って何なんだ」と叫んで死んでいく者もいる。暗いマンハッタンの裏路地でマットの空きボトルだけが増えていく、やるせなさに満ちた街角案内でした。