プロ野球のペナントレースも大詰め。これからクライマックスシリーズから日本シリーズへ、5~7戦の短期決戦が始まる。140試合ほども闘うペナントレースでは、3連敗どころか10連敗してもリカバリ手段はある。しかし、短期決戦ではそうはいかないから、自ずと戦い方が違う。
2018年発表の本書は、考える「ID野球」で有名な野村克也氏の遺言ともいえる戦術指南書。歴代2位の657本塁打を放ち三冠王も獲ったことのある名選手だが、むしろ監督として1,565勝、リーグ優勝5回、日本一3回の名監督としての名声が高い。
短期決戦の場合は「流れ」をつかみ、変えないことが最も重要。いったん「流れ」を渡したら、取り戻している時間はない。そして、その変わり目は思わぬ1プレーや一言でやってくる。一球の判定でシーズン全体を失った例も、余計な一言で相手チームの闘志に火をつけてしまった例もある。
日本シリーズなら自軍の状況は把握できているが、相手チームの情報は少ない。中心打者の得意コース、主戦投手の決め球、監督の性格などの情報は準備として必須だ。一方自軍の方は、長いペナントレースを戦う時には必要だった選手でも、短期決戦に不要かどうかの判断をしないといけない。このあたり、企業のリスク管理戦略に通じる考え方であり、マネジメント術である。
WBCやオリンピックのような海外勢との闘いでは、まず自軍の構成(特に監督の選択)が重要になる。国内のチームを率いるだけの能力では不十分なのだ。もちろん短期決戦だし、初めてのことばかりの中で、決断を下していかないといけない。敵軍だけでなく、審判やボールのような道具、球場の雰囲気や気候という相手もいる。
そんな状況でチームをまとめるには「一人で見る夢はただの夢、みんなで見る夢は現実になる*1」意識を徹底させることだと、巻末にある。最後は、技術・能力ではなく意識ということですね。
*1:ジョン・レノンの言葉