2012年発表の本書は、以前「お世継ぎ」を紹介した評論家八幡和郎氏の歴史書。舌鋒鋭い評論が印象的な筆者も、最近TV等でお見かけしなくなった。現代政治・経済の論説だけでなく、国内外の歴史の研究者であることも、上記の書で知った。
本書は「ありがちな戦国時代の逆転もの」だが、筆者のリサーチは綿密だ。加えて、多くの小説(や大河ドラマ等)で現代人には当然と思われている俗説を、明快な論理で切って捨てる爽快さがある。なぜ戦国時代中心かというと、太平の江戸時代に多くの歴史が徳川氏に都合のいいように改ざんされたことを暴くのが目的だから。
江戸時代に比べて室町時代のことは、小説でもドラマでも取り上げられることが少ない。精々応仁の乱くらいだが、金閣寺・銀閣寺を建立したり、大陸との交易を活発化したりするなど非常に文化が栄えた時代だったのに・・・。
これは、徳川光圀「大日本史」などが、天皇家をないがしろにした朝敵である足利一族を(不当に)貶めたことが根底にあるという。そもそも徳川(松平)のルーツは、南朝の雄新田氏にあったのだ。同じ理屈で、神君家康公に都合の悪いことは改ざんされていて、
・幼少時代今川家に庇護されたが、人質としていじめられてはいない
・長男信康と築山殿は粛清されるべくして粛清された
・徳川幕府と豊臣関白家は両立可能だったが、意図的に攻め滅ぼした
のが現実だとある。織田家は平氏の血筋で、信長は平清盛の治世を手本としていた。豊臣秀吉の「太閤検地」は、ずっと続いた隠し田などの表に出ない地方財源をあぶりだし、末端の豪族は困ったが戦国大名はむしろこれを利用した。家康は江戸が嫌いで伏見で幕府を開いた後、駿府までしか行かなかった。
などなど、興味深い記述が多い。日本の文化を発展させたのは足利義満らの室町時代で、政治・経済基盤を整えたのが秀吉らの安土桃山時代だった。江戸は秀吉が拓いたようなもので、徳川家はそれにちゃっかり乗ったとのこと。
舌鋒鋭い解説は相変わらずでしたね。面白かったです。