冷戦期のリアルなスパイスリラーと言えば、ル・カレ、バー=ゾウハー、デイトンらの名前が挙がるが、もうひとりグレアム・グリーンも有名な作家だ。しかし、これまでどの作品も読んだことが無かった。今回入手できたのが、1978年発表の本書。
1963年、英国MI6に30年勤務した諜報員キム・フィルビーがソ連に亡命した。彼はMI6にリクルートされる以前に、すでにソ連のスパイだったのだ。この衝撃の事件以降、英国でリアルなスパイスリラーが書かれるようになったと、解説にある。実は作者自身諜報員で、フィルビーの部下だったこともある。
南アフリカ担当の情報分析官カースルは、南ア時代に知り合った黒人妻サラと連れ子サムの3人暮らし。郊外に住み、駅までは自転車で通うなど、地味な暮らしをしていた。上層部が南ア情報がソ連に流れていたことを掴んでも、疑われることは無かったが、実は彼は二重スパイ。

バンツー族の妻と子供を救うため、出国を助けてくれたコミュニストの恩に報いるために、ソ連KGBのボリスに情報を流すようになっていたのだ。上層部の疑惑は若くて派手な生活を送るカースルの部下デイヴィスに掛かり、彼は不審な死を遂げる。
情報を流すと言っても、英国や同盟国を危険にさらすようなレベルのものではない。ただそれらを決まった手順(古書店が経由地になる)で時折流しているだけ。しかし疑いがついにカースルに掛かるようになってソ連は彼を巧妙な手段でモスクワに迎えようとする。妻と息子を巻き込みたくないと考えたカースルは、ボリスの指示に従って脱出を図るのだが・・・。
南アのアパルトヘイト政策推進の秘密警察ミュラー大佐、英国情報機関の長パーシヴァル卿、情報部監察官ディントリー大佐など、それらしい人物が跋扈する。そんな中、どうにも価値の低い二重スパイカースルにモスクワが入れ込むのはなぜか?
超人でもなく重大機密を扱うわけでもないスパイスリラー、それだけにリアリティは最高でした。作者の作品をもっと読みたいです。