本書はスペンサーもので知られるロバート・B・パーカーの単発もの。比較的初期(1976年)の作品で、スペンサーものを5~6作発表した後、初めてスペンサーの出ない作品を書いた。舞台はスペンサーと同じボストン、主人公の中年作家ニューマンと妻のジャネット、隣人で銃器マニアのクリスの3人がマフィアの大物に挑む物語だ。なんとなく後年の「スペンサー、スーザン、ホーク」のトリオを思わせるが、その3人よりは今回の主人公たちは普通人に近い。
46歳の作家ニューマンは、ジムで汗を流しランニングも欠かさないマッチョマン。朝鮮戦争に従軍はしたものの、後方支援部隊で銃を撃ったことも敵兵を殺したこともない。ある日ジムからランニングで帰る途中、マフィアの大物カールが黒人女性を処刑スタイルで射殺するところを目撃してしまう。
犯人はカールだと警察に告げ裁判で証言すると言って自宅に帰った彼を待っていたのは、全裸で縛り上げられたジャネットの姿。そこに電話が入り「証言するな」と脅迫される。警察内部にもマフィアの情報網があり、ニューマンのことがカールの部下に筒抜けになっていたのだ。

一旦は脅しに屈して証言を取り下げた彼だったが、ジャネットともども悔しさが募り隣人のクリスと共にカールを狙う事を決める。クリスは朝鮮戦争の英雄で、プロスポーツでも鳴らした男。酒場の用心棒なども経験していて、軍用ライフルなど豊富な武器を持っている。ニューマンは男の意地、ジャネットは屈辱を晴らすため、クリスの指導でライフルや拳銃の訓練をする。
一方カールの方も、とりあえず証言しないように脅したのはいいとして、やはり危険なニューマンを消そうと殺し屋を雇っていた。なんとか殺し屋の魔手を逃れたニューマンたち3人は、メイン州の湿地帯奥の森に隠れたカールと息子や部下たちに闘いを挑む。
このころのスペンサーはまだ若く(30歳代だろう)、軽口をたたくタフガイだった。作者は中年の普通人が事件に巻き込まれて闘う姿を書きたくて、スペンサーものではない本書を書いたものと思われる。格闘や銃撃シーンの迫力は、ある意味スペンサーものを上回る。解説者は「スペンサーもので鼻につくパーカー節が、本書では目立たない」という。
作者の原点に近い作品かと思います。後年冴えわたるストーリー展開の見事さこそありませんが、重厚でリアルな作品でした。