新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

毛利佐太郎の東シナ海戦記(前編)

 本書は、1988年から89年にかけて産経新聞に連載された陳舜臣の長編歴史ロマン。室町時代末期、毛利元就の落しだね佐太郎が東シナ海を駆け巡る物語だ。室町幕府の権威も揺らぎ、地方豪族(直に戦国大名となる)が剣を競っていた。周防から出雲にかけては、博多港を持つ大内氏と出雲を抑える尼子氏がにらみ合っている。その間に小さな領地を持っているのが毛利氏。両者の顔色を見ながら延命しているのだが、若き当主元就が徐々に実力を発揮していた。

 

 明国との朝貢貿易は莫大な利益を生むのだが、今は足利幕府に代わり大内氏と播磨の細川氏が利権争奪戦をしている。寧波に両者の遣明船が入港し、大内派が細川船団を焼き討ちした。その最中に燃える船から助け出されたのは、7歳の佐太郎。彼は実は元就が正妻をめとる前に作った落し胤だった。

 

        

 

 毛利の旧家臣新吉に育てられた佐太郎は、棒術や拳法を使い中国語も日本語も堪能な青年に育つ。琉球の識者も、彼に知恵を授けてくれた。寧波にはポルトガル船もやってきて、新兵器「鉄砲」の威力に佐太郎らは驚く。

 

 寧波の事件から10余年再び遣明船がやってきたが、今回は薩摩からの船。日本からより琉球経由がより明に受け入れられやすいので、琉球に影響力のある薩摩が利権を獲っている。東シナ海で貿易に携わる佐太郎は、一度だけ父親元就に目通り叶った。土産にしたのは鉄砲数丁。これは後に、尼子の軍勢に追い詰められた元就の命を救う、秘密兵器になった。佐太郎たちの助けを借りたポルトガル人は、スペイン人に先駆けて「黄金の島ジパング」に一番乗りする。この時に種子島に「鉄砲」を伝えたというのが定説だが・・・。

 

 成長した佐太郎は、天下一と言われる大富豪曽伯年が会いたいという。打ち明けられたのは、明帝国を相手取るクーデター計画だった。曽はいわば海賊のような部隊を率いて明の足元を揺るがせるのは、佐太郎しかないと思っていた。引き受けた佐太郎は、「倭寇」の中国人首魁王道と連携して、中国沿岸を荒らしまわる。

 

<続く>