2002年発表の本書は、ドイツのミステリー作家ベルンハルト・ヤウマンの第五作。非常に凝った作品を書く人のようで、人間の五感と長い旅行をした街を組み合わせて、連作を発表した。
1.聴覚・ウィーン「聴覚の崩壊」
2.視覚・メキシコシティ「視覚の戦い」
3.触覚・シドニー「奇襲」
4.嗅覚・東京「香りの罠」
5.味覚・ローマ「死を招く料理店」
という次第。本作で、ドイツの推理作家クラブ賞であるグラウザー賞を受賞している。受賞作ということで、扶桑社は第五作をまず邦訳したのだろうが、以後東京を舞台にした第四作すら日本では出版されていない。
筋立ても凝ったもので、「わたし」というドイツ人作家がローマでミステリーを書く、その過程で事件に巻き込まれるのだが、書いている原稿の事件と巻き込まれた事件が交互に登場する。舞台となっているのは、どちらもローマのトラットリア<パルロッタ>。2つのストーリーで同じ名前の人物も出て来て、立場が違うので分かりにくい。劇中劇はブルネッテイという私立探偵が、<パルロッタ>で食事をして酷評したレストラン評論家が殺された事件を追う。
原題の「Saltimbocca」はドイツ語ではない。イタリアの料理の名前で、ローマ風サルティンボッカは、仔牛の薄切り肉と生ハム、セージの葉を巻き上げ白ワインやバターで仕上げたもの。ローマを代表する料理らしい。この他にも、魚介料理やチーズ、各種パスタ(リングイーネやリガトーニ)、ワインやグラッパもふんだんに登場する。
特にワインは最高級のバローロを、盗賊団が盗んだり味わったりするシーンも出てくる。それをローマっ子という設定のブルネッテイが紹介するのはいいのだが、到底グルメとは思えないドイツ人の「わたし」が楽しむ場面では「ほんまかいな」と思ってしまう。昨年「英国人のグルメ探偵」なんてあり得ないと紹介したが、ドイツ人もほぼ同様。
「わたし」が劇中劇を書き進んでいるうちに、原稿がだれかに読まれてしまい、作中殺された女のモデルの女性がストリキニーネを呑まされる。「わたし」は突然毒殺未遂の容疑を着せられてしまうのだが・・・。
ブルネッテイがスクーターでローマの街を観光案内してくれる場面(ローマの休日のパクり?)も多く、その意味でも楽しめた1冊だった。でも他の4作が邦訳されなかったのは、やっぱり売れなかったからでしょうね、本書が・・・。