2020年発表の本書は、国際政治学者友原章典氏の「移民論」。欧米で移民排斥の声が多くなる中、日本も今後移民問題と排斥運動の激化が予想される。一部に感情的な議論があることから、本書の「道義的な観点を外し、純粋経済的な面を見て」のスタンスに期待して買ってきたもの。
本書では諸説ある移民の定義を「海外からきて、長期的に住んでいる人」としている。日本に住む移民(外国籍の人)は約250万人、米国(5,000万人)の1/20である。人口比で言うと2%で、14~16%もいる英米独に遠く及ばない。そこで米国などの統計を基に、移民の経済効果について検証している。
まず労働市場についてだが、国境をなくして自由な移動を認めると、理論上世界のGDPは1.5~2.5倍になる。ただこれには条件があって、先進国のシステムが移民によって変更されない(つまり移民側だけが変わる)との前提だ。
移民が労働市場に入ってきても、マクロ的には賃金に変化はない。しかし特定の地域や業種によっては、賃金下降が見られる。例えば、高校中退や既存移民の層では市民対移民の競合が起きて賃金が下がる。育児サービスなどに従事する労働者が増えるため、高技能女性の社会進出は増える。この層の出産数も増えるが、そのような女性が男性の職場を侵食するため、男性の格差が激しくなる。
住宅・不動産については品薄になるので、一般に(短期的に)は値上がりする。資産を持っている人には恩恵になる。しかし局地的(スラム等)には値下がりする場所も出てくる。移民は公共サービスを使う量が少ないので、財政負担を減らす(*1)ことが多い。しかし米国ほど増えてしまったり、また手厚い保護をすると財政負担が増えてしまう。
社会的対立や孤立、犯罪増・治安悪化という点についても、局地的なことを除いては移民の悪影響を示す統計はない。確かに日本でも、人口当たりの軽犯罪は多いものの、重犯罪は逆に少ない。
少子高齢化、人手不足の日本ゆえ、移民問題は方々で語られますが、ちゃんとして統計や学識者の意見を知りたかったので、大変参考になりました。
*1:要は社会として移民が「お得」