1922年発表の本書は、「樽」でデビューしたF・W・クロフツの第三作。後年の名探偵フレンチ警部は登場せず、素人を含む複数の捜査官が英仏海峡をまたぐ組織犯罪に挑む。
ボルドーの街に近いレク川のほとり。ワインを扱う商社員メリマン青年は、ふと迷い込んだ製材所で美しい英国人の娘マデリーンに逢う。炭鉱の支柱用木材を切り出し、英国へ運ぶための製材所でのことだった。娘の父親コバーン氏は親切にしてくれたのだが、この製材所のトラックが識別番号を取り換えていたのではとの疑惑をメリマンは持った。
帰国して関税局に勤める友人ヒラードにその話をすると、ヒラードは密輸を疑い自分のヨットで休暇を利用した調査をしないかと持ち掛けてきた。この製材所に通ってくる定期船<ジロンド号>は、英国のハンバー川との間を往復していて、川も遡上できる輸送船だ。

2人はこの船が、木材に隠れて何かを密輸していることを掴んだ。すぐ告発しようとするヒラードに対し、娘に惚れてしまったメリマンは1ヵ月の猶予を乞う。彼は三度フランスに渡り、コバーン氏に自首するよう勧めた。
しかしその後コバーン氏がロンドンで射殺体となって発見され、ロンドン警視庁のウイリス警部が乗り出した。メリマンたちは警部に状況を話し、素人探偵からプロ捜査官にバトンが渡る。警部は何人かに容疑者を絞り、ついに実行犯をつきとめた。しかし犯罪組織全体を摘発するには、フランスでの捜査が必要になる
犯罪組織は英仏の酒税法の違いを利用して、フランス警察が動きにくい犯罪スキームを構築していた。警部はフランスで私立探偵を雇って調査を続ける。今なら違法捜査で無罪判決が出そうな、忍びこみや盗聴などもウイリス警部らは難なくやってのける。
本書は、学生時代にも読めなかった「幻の名作」。解説には「樽」とよく似た趣向ながら、より大きな規模の犯罪を扱い「樽」以上との評価もあるといいます。新橋の古本市で装丁がぼろぼろのもの見つけて買いました。読めて良かったです。