ミステリーと言えば20世紀中盤までは英米のほぼ独占(ちょっと仏もあり)、その後北欧ものなどが紹介されるようになり、21世紀には独伊のものも邦訳されるようになった。昨日紹介したのはナポリを舞台にした警察小説だった。本書は2011年発表の、ベルリンを舞台にした社会派ミステリー。作者のヴォルフラム・フライシュハウアーはカールスルーエ生まれの歴史/美術史ミステリー作家。本書は7作目にあたる。
時代は2003年、ベルリンの壁が崩れて20年以上たつというのに、この街が持つ歪みは治っていない。それを実感しているのが、州刑事局警視正のツォランガー。60歳になるが、今でも刑事チームを率いて犯罪捜査にあたっている。東ベルリンだった時代からの警官で、
・東西ドイツ統一で、貯金などの資産は半減した。
・ユーロ導入で、マルクがなくなりさらに資産が目減りした。
とつつましい暮らしをしている。
クリスマスが近く雪が積もるベルリンで、山羊の頭を乗せた女の胴体(原題のTORSO)が見つかった。胴体は冷凍されていたらしく、死亡時期も分からない。さらに、別の現場では羊の死体とその腹に埋め込まれた女の片腕が発見される。
捜査を指揮するツォランガーのところには若い娘エーリンがやって来て、数ヵ月前に自殺したとされる兄の事件を再捜査してくれという。兄は投資会社のIT責任者で、会社やその親会社であるツィーテン銀行とコンフリクトがあったらしい。
東西に分かれていた時代から、東ベルリンは「お荷物」だった。産業があるわけではないのに政治的理由でカネが入ってきた。東西統一でそのカネが減って、経済危機が訪れた。そこでのし上がったのがツィーテン銀行。エーリンの兄は、その暗い秘密を知っていたらしい。
東ベルリンの財政問題を背景に、二転三転する事件。なかなか面白かったです。東西分離時代の爪痕も含めて、勉強になりました。