新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最悪のはじまりで迎えた対米戦

 本書は「大鑑巨砲作家」横山信義初期のシリーズ「修羅の波濤」の外伝。「鋼鉄のリヴァイアサン」でデビューした作者は、本当に書きたかった「八八艦隊物語」全5巻ののち、「修羅の波濤」全8巻で太平洋戦争のシリーズものを書き続ける自信を得たように思う。

 

 太平洋架空戦記を、宇宙人の新兵器やタイムスリップなどSF的な手法を使わないのなら、緒戦の真珠湾攻撃旧式戦艦7隻だけでなく、付近にいる「エンタープライズ」「レキシントン」さらに真珠湾港湾施設や燃料貯蔵施設なども葬ってしまうのが勝てる機会。対して、一切犠牲を(特に空母は)出してはいけない。

 

 しかしこのシリーズでは、冒頭に南雲機動部隊のうち4隻の空母が沈没してしまう。そこから生き残った「瑞鶴」「飛竜」のコンビが、太平洋機動戦を展開することになる。この圧倒的に不利な状況から、日本軍が勝機を見出だすのがポイントになる。

 

        

 

 外伝1の本書では、3つのエピソードが紹介されている。

 

◆カムヒア、ミッキーマウス

 日本軍の奸計にかかってグアム島に取り残された2万名近い海兵隊。これは米国艦隊を釣りだす囮で、彼らに補給を届けるべく多くの米軍艦艇が犠牲になった。そんな戦いの中、「31ノット・バーク」の異名を取ったバーク中佐が水雷戦で日本軍艦艇を打ち破った話。

 

◆蒼海の牙

 日本軍が奪回したばかりのトラック環礁に侵入して、戦艦「日向」を沈めた米国潜水艦の戦いと、これを迎え撃った沿岸哨戒艇隠岐」の活躍。

 

◇生命は我が戦果

 兵士の命を軽視した史実と違い、特にパイロットの救命に尽力した飛行艇部隊の活躍を描いた話。巨人機二式大艇と、B17の空中戦が見もの。

 

 本編では、暗号解読によって陥穽を仕掛け緒戦の勝利に酔った米軍が、冷静さを取り戻した日本海軍に追い詰められる面白さを描いていました。外伝では、本編で取り上げられなかった下級士官クラスの活躍が顕著でした。懐かしい、架空戦記でしたね。ちょっと現実離れしていますけれど。