新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「自衛隊を活かす会」の停戦議論

 本書は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて「自衛隊を活かす会*1」のメンバーに戦史研究家を交えて「いかに停戦させるか」を議論したレポート。議論は2023年9月に行われたが、その後ハマスイスラエル攻撃があって、ガザの悲劇も始まった。本書には、ウクライナ戦争がなぜ終わらないかと、ガザ紛争へのコメントが記されている。

 

 ウクライナ戦争は、世界の多くの国や市民が「犠牲を少なくするため早期の停戦を」と願っているのだが、ウクライナ・ロシア双方が交渉のハードルを上げて停戦の方向性は見えていない。実は侵攻初期には、

 

・クリミアを15年間棚上げ

・ドンバスなど2州の帰結は停戦後協議

 

 で停戦交渉がまとまる可能性があったという。それが絶望になったのは<ブチャの虐殺>が表面化してから。ウクライナ市民の怒りはもとより、それまでは地域紛争で両国間の交渉を見守っていた国際社会が、ロシア悪者説に傾斜したのだ。

 

        

 

 論者の一人は侵攻2ヵ月後に、石破議員(現総理)、中谷議員(現防衛相)と3人で提言を公表している。日本政府は国連に対し、安保理の壁があっても、緊急総会を開いて停戦決議をさせるように、というのがその主旨。しかし1年半たっても停戦の糸口は見えず、その奥深い理由を各論者は次のように述べている。

 

・米国が常に「分断」を作り出して、新しい標的を求める

・現実空間での戦争経済と、言説空間での関心経済が一体化している

三十年戦争終戦はフランス・リシュリューの陰謀による。今彼に相当するのは習近平

・戦争を支えるのは市民の意思、「英霊」にこだわりすぎては兵を引けない

 

 言説空間というのが、目新しい言葉。報道されることなどで人の心に生れる戦争のイメージのことらしい。世界の世論を形成するのは、現実の戦争ではなく言説空間での闘い、要はイメージ戦ということらしい。

 

 本題ではないが「専守防衛」については、必ず日本市民が犠牲になる考え方だとあります。いつまでこの考えに縛られるのか?市民の犠牲が出ないとダメなのか?との叫びが聞こえてくるようでした。

 

*1:会長柳澤協二元内閣官房副長官補以下、防衛関係者で2014年に結成されている