新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「ロシアの世界」の意思と所業

 昨日「戦争はどうすれば終わるか」でウクライナ・ガザの紛争終結に向けた国内の議論を紹介したのだが、そのウクライナがどうなっているかを知る必要があると思って読んだのが本書(2023年発表)。著者の岡野直氏は朝日新聞記者、海外取材の経験が豊富だ。ロシア侵攻後のウクライナ各地を取材し、その現状をレポートしたものである。

 

 プーチン政権のロシアには「ロシアの世界」という概念がある。ロシア語を話す人が棲んでいるところはロシアだとの意味である。ウクライナは東西で文化色が異なり、東部中心にロシア語を日常使う人が少なくない。全体の統計としては、

 

ウクライナ語を使っている 90%

・ロシア語を使っている 40%

 

 で、30%が2つの言葉を使い分けている。バイリンガルという意味では、もっと多い。前政権ではロシア語禁止の試みもあって、初等中等教育はほぼウクライナ語にななった。これには反発も多く、親ロシア派の武装抵抗の原因のひとつもそこにある。

 

        

 

 侵攻初期にキーウに迫ったロシア軍は、スラブ系兵士は少なく多くがブリヤート人など東洋系だったとある。宗教・文化が異なるせいか、民間人にも残虐行為をし、戦闘より略奪にいそしんだ。彼らが去った後のブチャの惨状は、世界に衝撃を与えている。

 

 ドネツクマリウポリも激戦地である。2014年にも親ロシア派の襲撃があったが、これは失敗している。しかし今回は親ロシア派住民の通報で、対空火器の位置がロシア軍に知られていた。早々に対空能力を破壊された後は、ロシア軍機の跳梁を防ぐ手段がない。アゾフスターリ製鉄所等に拠って戦うも力尽きた。ここでの残虐行為は、ロシア支配下なので報道が少ない。

 

 市民の中には逃げ出す人もいたが、多くは自衛のために戦った。身分証明さえあればAK-47が配られたし、兵站や給餌などもボランティア市民が支えている。懸念されるのは、ロシア軍がザポリージャ原発を占拠し軍事要塞と化したこと。ウクライナ人技術者が捕虜のような扱いを受けながら、安全を確保している。

 

 要は「ロシア語住民がいるところは、いつ侵攻されるかもしれない」ということです。北方領土はもう無理でしょうし、ロシア語の看板があるところも危ないですね。