新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<EQMM>が産んだ名手

 本書の作者トマス・フラナガンは、アイルランド文学が専門の文学者。1949年に<EQMM>に「玉を懐いて罪あり」が掲載されて以降、10年間短編ミステリーを発表し、表題作「アデスタを吹く冷たい風」で同誌の年間1位を受賞している。作者には他に3冊の長編があるが、いずれも歴史小説

 

 本書は短編7編を収録していて、うち4編に義足のテナント少佐が登場する。テナント少佐は、バルカン半島か東欧をイメージした架空の国の憲兵で<狼>とあだ名されている軍人。この共和国は第二次欧州大戦の後、長い内戦の末に某党のTOPである太っちょの「将軍」が統治している。テナント少佐はかつては憲兵隊長・大佐だったが、党員ではないことと孤高の性格が災いして現職にある。

 

        

 

 密輸の摘発や国際的な重大事件の始末には有用なのだが、上司にとっては扱いにくい人物で、面従腹背は当たり前。ある事件では、外国のスパイを抹殺する秘密任務を逆手に取り、気に入らない人物を合法的に始末してしまう。場合によっては、若い純真な将校を、そうなると知って死地に追いやったりする。

 

 テナント少佐が登場しない作品も含めて、作者の得意なほのめかしとブラックユーモアが詰まっている。直接物事を書かず遠回しかつ執拗に事実を並べて、読者の疑惑を膨らませるほのめかしの技術は、他に例が思いつかないほど素晴らしい。

 

 デビュー作「玉を懐・・・」は、15世紀の北イタリア争乱を舞台にした密室もの。フランス王に宝玉を贈って宥和を図ろうとした北イタリアの王。その役目を辺境の城主モンターニョ伯爵に託したが、伯はフランス特使を迎える宴席のさなかに、宝玉を奪われてしまった。宝玉を収めた部屋には宴席につながる扉のほか、千フィートの断崖に通じる窓しかない。そのなぞに挑むのは、王の特使ニッコロ・マキャベリ

 

 この作品、いつぞや読んだ記憶がありました。作者は素晴らしい短編の名手です。もっと書いて欲しかったですね。