新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

厳寒の中ソ国境に潜入するクィラー

 1978年発表の本書は、昨年デビュー作「不死鳥を倒せ」を紹介したスパイ作家アダム・ホール晩年の作品。地味だが優秀な諜報員であるクィラーだが、上司パーキスとの仲は最悪。部下をチェスのコマのように思っている彼は、平気で嘘もつくし部下を死地に追いやる。

 

 ロンドンの地下鉄に乗っていて、偶然(*1)乗り合わせた敵性国のスパイを殺してしまい、クィラーは海外任務を断れない状況になっていた。パーキスの指示でバルセロナに逃れたクィラーは、そこでジェット戦闘機の操縦訓練を受ける。続いて西ドイツの米軍飛行場に移った彼は、ソ連の最新鋭戦闘機Mig28を見せられる。任務はこの機を駆って、紛争続く中ソ国境カザフ共和国に潜入することだった。

 

        

 

 前半はパイロットとして未熟なクィラーが、見たこともないソ連製の戦闘機に乗れるようにする訓練が中心。ハンガリー上空からソ連南部を抜けて目的地まで行くのだが、途中で管制塔などから誰何された時の対応などに面白さがある。

 

 ようやく目的地に降り立ったクィラーを待ち受けていたのは、1969年のダマンスキー島武力衝突以来緊張が高まる中ソ国境で怪しげな活動を続ける工作員キリンスキーとの邂逅だった。厳寒のカザフ共和国で、クィラーは誰も信用できない(ゼロ・トラスト?)中での活動を余儀なくされる。いざとなったら新疆ウイグル地区へ逃亡すると言っているのを読んで、今でもこのエリアは火種なのだと感じた。

 

 ミッションの本当の意味は、クィラー同様読者にも分からない。それがタマネギの皮をむくように1枚1枚はがれて真実に近づいていく過程が、作者の真骨頂。姿は冒頭しか現さないが、パーキスの「部下も鹵獲機も消耗品」と考えるスタンスはありありと分かります。解説の最後の行「クィラー、生きて帰ってきてくれ」が印象的な作品でした。

 

*1:偶然のはずはなかったとクィラーは後に思う